研究課題/領域番号 |
24790259
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
土屋 裕義 自治医科大学, 医学部, 助教 (80508755)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バソプレッシン / バソプレッシンV1a受容体 / 精巣上体 |
研究概要 |
当初の計画通り、マウスの雄性生殖器におけるバソプレッシン受容体ならびにオキシトシン受容体の発現解析を行った。これまでの報告には生殖生理にかかわる組織でのバソプレッシン受容体などの発現分布を詳細に比較解析したものは存在しない。そこでバソプレッシン受容体であるV1a, V1b V2の3種類、ならびにオキシトシン受容体(Oxtr)のオス生殖器(精巣、精巣上体、精嚢、前立腺、膀胱、凝固腺、輸精管、陰茎)における発現解析を行った。その結果、バソプレッシンV1a受容体の発現は精巣、精嚢、凝固腺、輸精管、陰茎で弱い発現が見られ、精巣上体と膀胱で強い発現が観察された。同様にしてオキシトシンOxtr受容体について発現解析をしたところ精巣、精巣上体、精嚢、凝固腺、輸精管で発現が観察され、特に凝固腺で顕著な発現が認められた。また、バソプレッシンV1b受容体は膀胱、凝固腺にわずかに発現が観察され、バソプレッシンV2受容体は精嚢、凝固腺、陰茎に比較的強い発現が観察された。このように、それぞれ類縁な受容体であるが固有の発現パターンを示し、受容体ごとに異なる生理機能に関与していることが考えられる。 今回遺伝子欠損させたマウスで産仔数減少が見られたバソプレッシンV1a受容体は特に精巣上体に発現が強いことから、精巣上体がかかわる生殖生理に関与していることが考えられる。精巣上体は精子が精巣で産生された後に成熟する過程で重要な組織であることがわかっている。すなわち、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスで観察された異常は精子の機能成熟に起因するものであると推察される。そこで以降の解析では、予定通り精子の機能解析に注目し解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では当初の計画通りにバソプレッシン受容体ならびにオキシトシン受容体の雄性生殖器における発現解析を行い、それぞれがどのような発現分布をしているかを明らかにした。特にバソプレッシンV1a受容体とオキシトシン受容体はともにGqカップリングをしているGPCRであり機能的に近い作用を持っているため、同時に発現する組織で機能を個別に解析することは困難を伴うが、これまでの解析により分布が分かれていると明らかになったことは今後の解析の上で大きなアドバンテージである。ほかにタンパク質レベルでの解析を行うためにバソプレッシンV1a受容体に対する抗体を探索および作成を試みているが、現時点で特異的に検出可能な抗体は得られていない。しかしこれまでのところを総括すると、平成24年度の解析で得られた結果は注目すべき生殖組織の絞り込みに重要なものであり、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスで観察されている産仔数減少がオスの生殖機能に原因があるという仮説に一致するものであるなど研究の基盤を支える非常に重要な情報である。 in vivo の実験ではバソプレッシンV1a受容体欠損マウスを軸に様々な掛け合わせをすることにより、生体レベルでどのような悪影響が生じているのかを詳細に検討している。限られた産仔数による欠損マウスの解析のため現時点では十分なデータ量が集まっていないため確定的なデータはまだ提示できないが、さらに実験を重ねることにより有意な変化を捉え明らかにしていく。また同時に、オス側の生殖生理の変化だけでなくメス側の影響がどの程度の寄与で存在するかについても解析を行っているが、この部分についても引き続き並行して進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように当年度までの解析からバソプレッシンV1a受容体は精巣上体で強い発現が観察され、他のバソプレッシン受容体やオキシトシン受容体とは異なる発現分布を示しちることが明らかとなった。精巣上体は精子の成熟に関わる組織であることが知られているため、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスでの産仔数減少は精子の成熟不全で引き起こされた可能性が考えられる。そこで今後は当初の予定通り、バソプレッシンV1a受容体欠損マウスと野生型で精子機能や精子数の異常を比較することでバソプレッシンV1a受容体の役割について解析する。 加えて、バソプレッシンV1a受容体の下流のシグナルについても解析を進める。バソプレッシンV1a受容体はGqカップリングをしているGPCRであり、リガンドが結合することによって細胞内カルシウム上昇をもたらし、関連する細胞内シグナルが活性化すると考えられる。しかしながら、そうしたカルシウムシグナルがどのように精子成熟に関わっているかについては全くわかっていない。そこでバソプレッシンV1a受容体が精巣上体でどのようなシグナルを活性化し、どのようなタンパク質の作用を誘導することで機能を発揮しているのかについて詳細な解析を進めていく。 in vitroの実験ではさらに解析数を増やし、バソプレッシンV1a受容体で観察される産仔数減少が親単独の影響で生じるのか、それとも仔側の因子が関与するのかを詳細に検討する。また合わせて、親の因子はオスだけに依存するものなのか、メスの影響も存在するのかについて詳細に解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定の平成24年度の実験は行動実験に関するものを多く含んでいた。しかしながら、動物飼育室の隣室が本学の建物のリニューアル工事に充当され日中に騒音を発する機会が増えたためか、バソプレッシンV1a受容体マウスや野生型マウスの妊娠するマウスの数が少なくなってしまいin vivoの解析に供することのできる動物量が減じてしまった。またそうしたストレス下にある状態での解析結果はデータの誤りを生み出すことを危惧し、平成24年度は主にin vitroの実験を優先的に進め、工事の落ち着いた時期を見計らってin vivoの解析を行うことにした。このようにin vitro の解析を優先した結果、生殖機能とバソプレッシンV1a受容体をつなぐ注目すべき組織が限定されるなどのアドバンテージを生み出している。これは今後のin vivoの解析を行う上でもメリットの大きい結果である。 以上のように予定を差し替えてin vivoの実験を引き続き行っていく都合上、この部分に関わる予算は先送りし次年度以降に使用予定である。
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