当該年度までの結果からバソプレッシン受容体(V1a受容体)は雄性生殖器に発現していることが分かった。また、産仔数減少などの生殖異常はメスの遺伝子型に由来することが明らかとなっている。 これらの結果をさらに発展させるべくV1a受容体の雌雄生殖器における発現分布を高感度のin situ hybridization法を用いて解析を行った。これまでV1a受容体については組織発現の有無は明らかになっているものの、特異的プローブ作製の難しさや発現量の少なさが障壁となって確固たる結果は得られていない。しかしながら、今回の解析では雌雄生殖器における特徴的な分布が明らかとなった。まず雄性生殖器では、輸精管の筋層内と精嚢にわずかな分布が確認された。一方で、精巣や精巣上体では間質に強い発現があることが分かった。特に精巣上体ではinitial segmentの部分で強い発現が観察された。雌性生殖器では卵胞や卵管にわずかな分布が見られた。また、非妊娠時の子宮では子宮筋層と子宮筋に囲まれた動脈に発現が観察された。他にも生殖器ではないが、膀胱にも顕著な発現が観察され、これは既報で膀胱に強い発現が見られることとも一致する。 これらの結果から、組織の収縮に関与する細胞での発現が特徴的である。V1a受容体のこれまでの解析から機能的に示唆されていたように、血管に発現していることは血圧調節にV1a受容体が関わることに一致するし、輸精管への発現は精子輸送に関与するという報告と一致する。また、子宮筋の発現もin vitroでの収縮能を示した報告と対応する。一方で、精巣や精巣上体、卵胞での発現はこれまで相当する報告が無く未知の機能の存在を示唆している。 そのほかにも特定のペプチドがV1受容体を特徴的に制御しうることを明らかにした。 以上より今回の解析によってV1a受容体がこれまでの想定よりも広範な生理機能に関わっていることが示された。
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