研究実績の概要 |
本年度は健常ラットを用いて正常時網膜循環調節機構の一部を解明し,さらに糖尿病及び緑内障モデルラットを用いて網膜血管拡張機能障害に関与する因子を同定した. (1) 網膜循環調節機構に関与する内皮由来過分極因子 (EDHF) の同定:一酸化窒素合成酵素阻害薬 [L-NAME] 及び cyclooxygenase 阻害薬 [indomethacin] 存在下の内皮依存性血管拡張薬 [acethylcholine (ACh)] による反応,つまり EDHF 様刺激による網膜血管拡張反応は,ギャップジャンクション阻害薬 [18β-glycyrrhetinic acid] の硝子体内投与により減弱した.従って,EDHF による網膜血管拡張反応にギャップジャンクションの関与が示唆された. (2) 緑内障モデルラットにおける網膜循環障害機序の解明:N-methyl-D-aspartic acid硝子体内投与 2 週間後の緑内障モデルラットにおいて [ACh], [adenosine] 及び EDHF 様の網膜血管拡張反応は減弱すること,β2 及びβ3 アドレナリン受容体刺激薬 [salbutamol 及び CL316243] による網膜血管拡張反応は変化しないことが明らかになった.従って,緑内障モデルラットでは内皮依存性網膜血管拡張機序が障害されることが示された. (3) 糖尿病及び緑内障の網膜血管障害に関与する因子の同定: 糖尿病及び緑内障モデルラットの網膜中に,過酸化脂質である [4-hydroxy-2-nonenal (4-HNE)] の発現が増大していた.そこで 4-HNE を健常ラットの硝子体内に投与すると,高コンダクタンス Ca 活性化 K チャネル開口薬 [BMS-191011] による網膜血管拡張反応が有意に減弱した. 本研究の成果を総合すると,酸化ストレス亢進に伴う 4-HNE などの眼内蓄積が,眼疾患の網膜血管拡張機能障害に関与している可能性がある.
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