研究課題/領域番号 |
24790262
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
樫山 拓 順天堂大学, 医学部, 助教 (90338343)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ニューレグリン / BACE1 / ミエリン / ErbB / 細胞間シグナル伝達 |
研究概要 |
In vitro切断で予測したNRGのBACE1切断部位C末端に相当する合成ペプチドを抗原としてウサギに免疫し、抗体を作製した。マウス脳cDNAよりクローニングしたNRG1 type I または type IIIを恒常発現する細胞を樹立し、BACE1過剰発現/ノックダウン、BACE阻害剤、ADAM阻害剤、ADAM活性化剤の条件下でNRGの切断様式をウェスタンブロット、ELISAで検討したところ、断端抗体はNRGのBACE1切断端を認識し、またADAMファミリープロテアーゼによる切断はBACE1とは別の部位で起こることが分かった。以上のことから、本抗体はNRGのBACE1切断を特異的に可視化、定量するのに有用であることが示された。ラット海馬神経初代培養細胞における観察ではNRG1 type IIIのBACE1切断片はプレシナプス領域に局在し、その量は神経活動依存性があることが示唆された。 次にErbB2/ErbB3受容体を恒常発現する細胞を樹立し、先のNRG1 type III恒常発現細胞と共培養し、Juxtacrine様式によるErbB活性化の程度をリン酸化ErbB3抗体で定量する系を立ち上げた。ADAM阻害剤存在下では細胞表面のトータルのNRG量に変化はなく、ErbBのリン酸化レベルにも変化はなかった。一方、BACE阻害剤存在下ではトータルのNRG量に変化は無いが、BACE1切断片の量が減少しており、ErbBのリン酸化レベルが低下した。以上のことから、NRGのBACE1切断がErbBリン酸化に重要であることが示唆された。 今後、これらのツールを使うことで、神経細胞におけるNRGとErbBの細胞間シグナル伝達の場を可視化し、NRGの切断、輸送、局在、ErbB活性化の機構を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NRGのBACE1切断部位の同定と断端抗体の作製については、計画段階から順調に進んでおり、抗体の特異性および、細胞系における有用性を確認した。一方、ADAM切断部位に関しては、切断に関与するとされるADAMアイソフォームが複数存在し、推定切断部位も膨大となるため、全てを検出しようとするのが困難であることが分かった。ミエリン形成においてはBACE1切断が重要であることから、最低限BACE1切断片を検出すれば良いので、ADAM切断片量は便宜的にトータルのNRG切断片とBACE1切断片の差分から求めることとした。 NRG-ErbBを介したJuxtacrine様細胞間シグナル伝達に対するBACE1切断の影響を評価するために、Junm-In systemを用いてErbB2/ErbB3を恒常発現するHEK293細胞を樹立した。可溶性の大腸菌発現NRGを培地に添加によりErbBのリン酸化レベルを高S/N比で検出することが出来た。また、NRG1 type III恒常発現細胞との共培養においても、ErbBのリン酸化を検出することが出来た。以上のことからJuxtacrine様NRG-ErbBシグナル伝達を定量・可視化するシステムの立ち上げは予定通りに達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
マウスDRGニューロンの初代神経細胞とErbB-HEK細胞の共培養を行い、神経細胞軸索とErbB-HEK細胞の接触部位におけるErbBのリン酸化を定量する。NRGの切断制御は、切断酵素阻害剤を用いる方法に加え、神経細胞のADAMまたはBACE1のノックダウンを行う。NRG切断端認識抗体とリン酸化ErbB抗体で可視化・定量し、切断の違いによる活性の違いや局在の違いについて検討する。もし、内在性のNRG発現レベルでは十分なシグナルが得られなかった場合は、神経細胞にNRGを遺伝子導入することも予定している。 ラットまたはマウスDRGニューロンの初代神経細胞とシュワン細胞の共培養系において、同様の検討を行う。ErbBリン酸化レベルの検討と同時に、ミエリンのマーカータンパク質であるMBP量の変化も検討する。実際にミエリンが形成されている場で、NRGがどの場所で、どの切断酵素によって切られ、どこでErbBにシグナル伝達しているかという像を明らかにする。 培養細胞や神経初代培養で得られた結果の生理的意義の確認として、マウス神経組織のスライス標本を用いて免疫染色を行う。切断端認識抗体の特異性が足りない可能性が危惧されるが、その場合、Duo-Linkシステム(OLINK BIOISCIENCE)を用いることでS/N比を上げる工夫をする。以上の方法により、NRGの切断と活性の相関を明らかにし、その違いが切断部位の違いに起因するのか?細胞内のどの部位で切断が行わるか?その後の輸送や局在の違いが活性に影響を与えているのか?について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
初代培養細胞を用いる実験では、培養やsiRNAやウイルスベクターなどに関連する高額な実験試薬を購入する予定がある。ミエリン形成の実験系においても、これから立ち上げる必要があるため、培養に関わる消耗品や評価に用いる抗体などの購入に割り当てる予定である。 以上のように、研究計画に基づき、目的を達成するために適切に使用する。主に研究に必要な消耗品、実験動物、解析委託に使用し、必要が生じた場合には、実験機器の購入に割り当てる。
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