ミエリン形成過程において、神経軸索とシュワン細胞間での細胞間シグナル伝達が重要であることが知られている。2006年にWillemらとHuらはBACE1 KOマウスがミエリン形成不全を起こすことを報告しており、その中でNRG1 type IIIのBACE1による切断がミエリン形成を調節することを示唆している。一方、2011年にMarcaらはADAMプロテアーゼを神経細胞特異的にノックダウンするとミエリン過形成を引き起こすことを報告しており、BACE1とは逆にADAM切断はミエリン形成を抑制することを示唆している。 本研究では、NRG1のBACE1切断およびADAM切断の活性相関を明らかにするために、切断を区別して検出するためのツールの作製を行なった。NRG1のペプチドを組換えプロテアーゼでIn vitroで切断後、質量分析に掛け、切断部位に基づいたペプチドをウサギに免疫した結果、BACE1切断端を認識する抗体を得た。培養細胞の系を用いた検討で、切断端認識抗体はNRG1のBACE1のメジャーな切断部位を認識し、またADAMの切断部位は別の部位であることが分かった。 切断活性相関を検討するために、ErbB2/ErbB3受容体を恒常発現する細胞を樹立し、NRG1 type III発現細胞と共培養し、Juxtacrine様式によるErbB活性化をリン酸化ErbB3抗体で定量する系を立ち上げた。BACE阻害剤存在下ではトータルのNRG量 に変化は無いが、BACE1切断片の量が減少しており、ErbBのリン酸化レベルが低下した。一方、ADAM阻害剤存在下ではErbBのリン酸化レベルに変化はなかった。以上のことから、NRGのBACE1切断がErbBリン酸化に重要であるが、ADAMによる切断はErbBリン酸化に寄与しないことが示唆された。 神経細胞においてNRG1の切断とErbB活性化およびミエリン形成への関与を検討するために、マウス脳および末梢神経を用いて検討したところ、残念ながらNRG1は検出限界以下でしかないことが分かった。
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