研究課題/領域番号 |
24790264
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
名和 幹朗 東京医科大学, 医学部, 助教 (10398620)
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / BTBD10 |
研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は進行性の運動神経変性疾患で、症状進行を止める治療薬の無い難病の一つである。我々はこれまでに、ALS関連神経細胞死がRac1/PI3K/Akt経路を介して抑制可能である事を報告し、さらにこの経路におけるAkt活性増強因子としてBTBD10を同定した。また、培養神経細胞や線虫においてBTBD10発現量を低下させる事で細胞死が誘導される事、さらには孤発性ALS患者や、ALSモデルマウスの脊髄運動神経細胞でBTBD10発現量が低下している事を明らかとした。 本年度は、昨年度に引き続きBTBD10ノックアウトマウス並びにBTBD10トランスジェニックマウス作製を行った。ノックアウトマウスに関しては、C57BL/6Jバックグラウンドにするための戻し交配を行っている。BTBD10トランスジェニックマウスは、長期飼育を開始し、寿命、体重変化、神経症状の有無、発ガン傾向などの観察を行っており、6ヶ月齢時点では野生型動物と差異は認められていない。さらに、BTBD10トランスジェニックマウスを筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスの一つであるA315T-TDP-43トランスジェニックマウスと交配し、ダブルトランスジェニックマウスを作製した。現在はこのBTBD10/A315T-TDP-43トランスジェニックマウスを用いて、BTBD10の高発現によりALS症状の発症時期、進行速度がA315T-TDP-43トランスジェニックマウスと比較して遅延するか検討を行っている。 また、本年度は上記の研究に加えBTBD10ホモログであるKCTD20の生理機能解析を行い、KCTD20がBTBD10同様にAkt全てのアイソフォームと結合する事並びに、Aktのリン酸化を上昇させる事を明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでにAkt活性化を介して細胞死抑制に働くBTBD10の発現量が、ALS患者脊髄運動神経細胞で低下する事を明らかとしており、ALSモデルマウスの1つであるG93A-SOD1トランスジェニックマウスの脊髄運動神経細胞においてもBTBD10発現量がALS症状進行依存的に低下する事も明らかとした。これらの事から、ALS脊髄運動神経細胞におけるBTBD10発現量低下が、ALS関連神経細胞死の原因の1つである可能性が考えられる。 本研究ではメインテーマを2つ設け、1)ALSモデルマウスとBTBD10トランスジェニックマウスを交配する事でALS症状の進行抑制あるいは、発症時期の遅延が観察されるか、2)BTBD10ノックアウトマウスでALS様症状が観察されるか否かを検討する。 1つ目の項目に関しては、本年度は予定通りBTBD10トランスジェニックマウスとALSモデルマウスの交配を行い、BTBD10/A315T-TDP-43ダブルトランスジェニックマウスを作製し、表現型の解析をする為の動物数を確保している段階であり、このまま順調に進めば予定通り平成26年度中旬までには解析が終了する予定である。 2つ目のBTBD10ノックアウトマウスのC57BL/6Jバックグラウンドへの戻し交配は予定通りに進んでいる。尚、今回作製するBTBD10ノックアウトマウスはCre-loxPシステムを用いたノックアウトである為、現段階ではBTBD10遺伝子のノックアウトは完了していない。研究がこのまま予定通り進行すると、平成26年度初旬に10回目の戻し交配を終了し、Cre発現マウスと交配する事でBTBD10ノックアウトマウスの作製、表現型解析、並びにALSモデルマウスとの交配が可能となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
我々が現在使用しているA315T-TDP-43トランスジェニックマウスはALS症状末期でも著明な脊髄運動神経細胞の脱落が観察されず、運動神経細胞におけるBTBD10発現量低下も観察でされない。そこで平成26年度は、他のALSモデルマウスであり、運動神経細胞死が観察出来、脊髄運動神経細胞におけるBTBD10発現量低下が見られるG93A-SOD1も併せて使用し、BTBD10の高発現によりALS症状の発祥並びに進行に及ぼす影響を観察する予定である。また、A315T-TDP-43トランスジェニックマウスは当初の予定通りBTBD10ノックアウトマウス、BTBD10トランスジェニックマウスと交配し、BTBD10遺伝子欠損あるいは過剰発現がA315T-TDP-43トランスジェニックマウスにおけるALS症状に与える影響を観察する予定である。 また、以前に我々は、家族性、孤発性両ALSに関与していると考えられているFUSによって培養神経細胞におけるBTBD10発現量が転写レベルで低下することを報告している。平成26年度はFUSによるBTBD10の発現低下機構を培養神経細胞を用いてさらに詳細に解析することにより、ALSにおけるBTBD10発現低下機構を明らかとし、BTBD10がALS治療のターゲットとなるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は当初の予定通り進行しており、物品購入もほぼ年度初めに想定していた金額となったが、実験を効率的に行った結果、予定より支出が78,960円少なく済んだ。 平成26年度はマウス飼育匹数が25年度より増える為、繰り越し分は床敷き代、餌代に補填する予定である。また、研究が進行するに従い、BTBD10と関与する新たな分子を発見した際にはその分子に対する抗体あるいは遺伝子購入費等にも使用する予定である。
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