研究概要 |
現在の癌早期発見の概念よりさらに早い前癌状態での診断を可能にすること、安全な薬剤を開発する上で早期に発癌性の有無を見極められるようにすることを目的として研究を開始した。これまでに発癌性物質を最長28日間投与されたラットの前癌状態の肝臓で発現が上昇している3つの遺伝子NADE, DR6, Aβを見いだした。発癌過程でのNADE, DR6, Aβの発現変化を追い、これらの発現と発癌との因果関係を明らかにするために、平成24年度は3項目の実験の実施を計画し、遂行した。 1. 発癌性物質であるジエチルニトロソアミンをラットに長期間投与し、経時的に肝臓組織や血液を採取する実験を開始した。肝臓組織はその後の実験の用途別にそれぞれにあった形状や状態で保存した。 2.発癌性物質を28日間ラットに投与すると肝臓は前癌状態に到達することが分かっている。そこで28日間投与によって得られた組織を使い、immunohistochemistry (IHC)とin situ hybridisation (ISH)の実験条件を検討した。前癌状態のラット肝臓組織におけるNADEの発現を購入可能な抗体で免疫染色できた。続いてDR6の免疫染色を購入可能な抗体で行っているが現在までに十分な感度の抗体は得られておらず、ISH法による染色と平行して検討している。 3. NADE, DR6のタンパク質の関わりを確認する為に、一過性強制発現させた培養細胞を用いて免疫沈降法にて簡便に確認する計画で、電気穿孔法で共発現を試みたが死細胞が多く難航した。このため、NADEを定常発現する細胞株を構築し、そこにDR6を一過性強制発現させることにした。これにより、NADE, DR6の両方が発現する細胞を多く作り出すことに成功した。 これらの実験は、発癌過程におけるこれらのタンパク質の細胞内での役割を解明する上で重要である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
NADE, DR6, Aβの三者が関わることを確認するための免疫沈降は細胞に一過性強制発現させて、平成24年度中に行う予定であったが、一過性強制発現ではほとんどの細胞が死んでしまい難航した。そこで、次年度以降に構築する予定であったNADEまたはDR6を定常発現する細胞株を構築し、この実験にも使用することにした。定常発現株を構築するには時間がかかった為、年度内に免疫沈降が行えなかった。次年度に持ち越す研究費は免疫沈降の為の抗体や試薬を購入するためのものであり、定常発現株は構築できているので、すぐに使用する予定である。翌年度以降に請求する研究費は、Aβタンパク質の発現や精製、DR6やNADEを内在的に発現する細胞の探索、アポトーシスアッセイなど、本来の実施計画通りに使用する予定である。
|