本研究の目的は、転写因子による連鎖的な細胞分化制御の遺伝子発現ネットワークの解析である。転写因子FoxO1は、プレB細胞において種々の標的遺伝子を制御することにより細胞分化を誘導する(Ochiai K. Nature Immunology 2012)。今回、FoxO1の下流因子として新規に転写因子Bach2を同定した。そこで、FoxO1-Bach2による経時的な三次元的遺伝子発現ネットワーク構築を目指した。 はじめに、Bach2標的遺伝子同定を目指しChIPsequence(ChIPseq)を行なうための抗Bach2抗体のスクリーングを行なった。数種の市販抗体およびオリジナル作製抗体を用いたが、効率的な抗体を得ることができなかった。そこで、タグ付Bach2を組み込んだレトロウイルスベクターを構築し、タグ付Bach2細胞を作製しタグ抗体でのChIPを行なったが、既知の標的遺伝子上への優位な結合を検出することが出来なかった。 これらの結果を受け、現在は異なるFoxO1標的遺伝子である転写因子IRF4をモデルに、FoxO1-IRF4三次元的遺伝子発現ネットワーク構築に移行している。利点として、研究者は内在性IRF4 ChIPseqを既に確立しており技術的な問題点がないこと、プレB細胞分化ではIRF4が必須であることが明らかであることが挙げられる。そのため、当初使用していたIrf4/Irf8遺伝子ノックアウト(dKO)プレB細胞株に代わり、新たにIrf4発現誘導型dKOプレB細胞株を樹立した。この新細胞株を用い、IRF4発現誘導およびIRF4標的遺伝子発現誘導を確認し、近日中に同細胞株におけるIRF4 ChIPseq解析実行を予定している。
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