受精後、3.5日目のマウス胚から由来するES細胞はサイトカインLIF刺激により未分化状態を維持したまま増殖が可能な幹細胞株である。ES細胞の未分化性維持には、転写因子Oct3/4が重要な役割を果たしている。本研究では、Oct3/4と相互作用する因子として、クロマチン・リモデリング因子Baf53aを見出した。 ES細胞におけるBaf53aの発現を解析したところ、未分化なES細胞に強く発現し、人為的にOct3/4の発現を停止させ分化を誘導させると、Baf53aの発現も停止した。またMBP pulldown解析を用いて、Baf53aとOct3/4の結合領域を決定したところ、Baf53aはOct3/4のPOU領域(specificドメイン)に強く結合し、Oct3/4のN末端領域やC末端領域には結合しなかった。一方、Oct3/4はBaf53aのあらゆる領域に結合することが可能であった。 Baf53aのES細胞での機能を推定するために、Baf53a RNAiをES細胞に導入し内在性Baf53aの発現を抑制したところ、ES細胞の増殖能が低下した。Baf53aノックダウン細胞の遺伝子発現の変化を調べたところ、細胞周期制御因子であるサイクリンD1の発現が抑制されていた。また未分化マーカーであるSox2の発現が大きく抑制され、一方分化マーカーであるGata6、T、Fgf5などが上昇していた。Baf53aはヒストンアセチル化酵素複合体にも含まれていることが知られている。そこで、グローバルなヒストンアセチル化状態を検証した結果、Baf53aのノックダウンによって、アセチル化ヒストンが減少していることを見出した。 以上から、未分化なES細胞に発現するBaf53aは、Oct3/4と相互作用しES細胞の増殖に関与し、ヒストン修飾を介したエピゲノム状態制御に関わっていることを見出した。
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