研究概要 |
ヒトiPS細胞に対してIFNγで刺激を行い、HLAのわずかな発現上昇が認められることを確認した。しかし、その上昇幅は線維芽細胞に対し10分の1程度であった。申請者が利用していた培養系ではマウスの胎仔線維芽細胞に由来するフィーダー細胞が混ざっており、iPS細胞そのものの反応を明瞭に捕えることが困難であった。そこで線維芽細胞とiPS細胞の比較を厳密に行うために、市販されている無フィーダー培養系の試薬の利用を検討した。ところがiPS細胞の継代を繰り返してみると、iPS細胞の形態が変形しディッシュから剥離していき、安定した実験系の確立が難しいことがわかった。複数の試薬を取り寄せ、体細胞およびiPS細胞が安定して継代できる培地を検討している。それぞれの培養条件で培養したiPS細胞よりRNAを調製し遺伝子発現を見てみると、培地やディッシュのコートに依存した遺伝子発現が認められた。 一方で、iPS細胞の樹立そのものに免疫系の活性化が必要であるという論文が発表された(Cell, 151, 547-558, 2012)。この論文ではpoly IC刺激によりiPS細胞の誘導効率の上昇が認められるという結果を示している。iPS細胞の細胞内の免疫機構を調べる上でも、非常に興味深い報告であり、再現を試みている。 さらに、申請者はヒト末梢血より効率よくiPS細胞を作製する方法を開発し報告した(Stem Cells, 31, 458-466, 2013)。現在はこの方法を発展させ、サルiPS細胞の樹立に挑戦している。ヒトに近い動物において、iPS細胞を作製し、自家移植や他家移植を比較することで、ヒトの移植時における免疫原生の有無や程度を類推することが可能になると期待される。
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