本研究では、細胞間接着の形成におけるアファディンを中心とした裏打ちタンパク質間の相互作用の変化に着目し、裏打ちタンパク質間相互作用による細胞間接着の形成機構を解明することを目的とした。最終年度は以下の成果を得た。カドヘリン系の裏打ちタンパク質α-カテニンとアファディンの相互作用の役割を解明する目的で、前年度までに同定したα-カテニン結合部位を欠失したアファディン変異体を作成し、それがα-カテニンに結合できないことを明らかにした。また、ネクチンとの結合によってアファディンと他の裏打ちタンパク質の相互作用が変化するかを検討するため、ネクチンとアファディンの相互作用を誘導する系を構築していた。その過程で、主に脳に発現するアファディンのアイソフォーム、s-アファディンがネクチンに強く結合することを明らかにし、さらにs-アファディンがグリア細胞ではなく神経細胞に発現していることを明らかにした。 研究期間全体を通しては、アファディンとPLEKHA7の新規の相互作用を見出し、ネクチンとカドヘリン系の新たなクロストークを明らかにするとともに、この2つの裏打ちタンパク質の相互作用が上皮細胞の細胞間接着形成において重要な役割を担っていることを明らかにした。また、長らく不明であったアファディンのα-カテニン結合部位を同定し、その領域がコイルドコイルと予測される新たなタンパク質結合ドメインであることを明らかにした。細胞間接着は組織、器官の形態の形成と維持および機能発現に必須であり、その破綻は細胞のがん化とも密接に関連している。細胞間接着の形成における裏打ちタンパク質間の相互作用の役割を明らかにした本研究の成果は、上皮、ひいては組織、器官の構築の分子機構の理解を深めるとともに、上皮細胞が接着、極性を失ってがん化するメカニズムの理解にも重要な知見を提供するという点で意義があると考える。
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