研究課題/領域番号 |
24790289
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
満島 勝 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (40621107)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ATP / カルシウム / 栄養飢餓 |
研究概要 |
細胞が様々な諸過程を行うにはエネルギー源としてATPが必須であり、細胞内オルガネラであるミトコンドリアがそのほとんどを合成、供給している。そのため、ミトコンドリアの機能異常は癌や神経疾患、糖尿病など様々な病態に関わるとされている。近年、ミトコンドリアは細胞の置かれた状況に応じて非常にダイナミックに形態や局在を変化させることが分かってきたが、その制御機構や役割に関しては不明な点が多い。本研究では、ミトコンドリアの細胞内局在とその活性に着目し、ミトコンドリアが様々な細胞外環境(細胞接着、増殖因子、栄養状態、酸素状態など)をセンシングし、それによりATP合成系を制御する仕組みを明らかにすることを目的とする。本年度はこれらの研究を進めるに当たり、まずカルシウム、ATPをセンシングするプローブおよびミトコンドリアの形態を可視化するためのプローブとしてVLMTS-GFPを安定発現する培養細胞株の作成を行った。用いた細胞はヒト網膜上皮細胞(RPE)およびイヌ腎由来正常上皮細胞(MDCK)を用いた。各細胞において、安定発現する細胞を数クローンずつ獲得した。これらの細胞を用いてタイムラプス観察によりミトコンドリア内におけるカルシウムイオン濃度、ATP濃度やミトコンドリアの形態を、様々な刺激を加えて観察した。カルシウム濃度はA23187やATPを加えた際には顕著な変化が観察されたが、増殖因子刺激や酸化ストレス刺激、栄養飢餓、また細胞密度の変化によっては観察できなかった。それらの刺激による変化は今回用いたプローブの検出限界以下であった可能性が考えられた。しかしながら、これらの観察からグルコース飢餓状態にすることでミトコンドリアの形態が顕著に変化することを見出した。ミトコンドリアによるATP産生能力とその形態には相関性が指摘されており、形態変化したミトコンドリアの活性を調べる必要が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のミトコンドリアによる環境センシングの分子機構の解明において、直接のATP量の変化やカルシウムイオンの変化を検出することはできていないが、栄養飢餓(グルコース飢餓)状態においてミトコンドリアの形態が大きく変化することを見出した。この分子機構について解析を行った。細胞内ATP濃度の減少によって活性化するAMPKというキナーゼが知られているため、その阻害剤を用いてミトコンドリアの形態に与える影響を検討した。その結果、グルコース飢餓によって引き起こるミトコンドリアの断片化とその細胞周囲への移動はAMPKの阻害剤であるcompoundCの処理により抑制された。また、AMPKのキナーゼサブユニットをsiRNAにより発現抑制し、内在性のAMPKの活性を阻害した場合においてもそれらのミトコンドリアの形態変化は見られなかった。このことから、栄養飢餓状態によるミトコンドリアの形態制御にはAMPKが関与していることが示された。また、ショ糖密度勾配遠心法を用いて細胞内オルガネラの分画を行いAMPKの基質分子がミトコンドリアに局在するかを検討したところ、AMPKの基質のリン酸化特異的抗体によって複数のタンパク質がAMPKによってリン酸化されていることを示唆する結果を得た。そこでスケールを大きくして、飢餓状態とcompoundCによってAMPKを阻害した細胞からミトコンドリアを精製し、可溶化後、AMPKの基質のリン酸化特異的抗体によって免疫沈降し銀染色によって沈降タンパク質を調べたところ、飢餓状態において複数のタンパク質の沈降を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアの形態とミトコンドリアのATP産生能力には相関性が指摘されており、また、ミトコンドリアの形態変化はアポトーシス時にも必要であると考えられている。今回栄養飢餓状態(グルコース欠乏)とした時において細胞の栄養センサータンパク質の一つであるAMPKを介したミトコンドリアの形態変化制御機構が存在することを明らかとした。この分子メカニズムを明らかにするため、ミトコンドリア、及び細胞質に存在するAMPK基質分子の網羅的なスクリーニングをするため、AMPKの活性化状態と、その活性を阻害した状態の細胞からショ糖密度勾配遠心により細胞質、ミトコンドリアを分画し、AMPKの基質のリン酸化特異的抗体によって免疫沈降し、SDS-PAGEによって泳動分離して銀染色を行う。特異的なバンドを質量分析装置(LC-MS/MS)により同定を行い、ミトコンドリアの形態制御に関わる分子を決定する。これらの解析から、ミトコンドリアが細胞外の栄養状態をセンシングしその形態、活性を制御する仕組みを明らかとすることを目的とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
質量分析装置により同定される複数のタンパク質がAMPKによるミトコンドリアの形態制御機構に関与するかを検証するため、各遺伝子のクローニング、リン酸化部位の同定とその変異体の作成を行い培養細胞に導入し、ミトコンドリア形態制御に関わる因子を探索する。また、内在性タンパク質の機能を調べるため、siRNAを複数作成し、遺伝子抑制した際のAMPKによるミトコンドリア形態制御にどのような変化が見られるかを調べる。この時発現量のチェックや内在タンパク質の解析のため、各タンパク質の抗体を購入し調べる。さらには、昨年度作成したATPセンシングプローブやカルシウムセンシングプローブの安定発現細胞を用いて、AMPKによるミトコンドリア形態制御因子に関与が示されたタンパク質をsiRNAにより発現抑制し、ATP産生能力やカルシウム調節能力の変化を観察する予定である。さらに、リン酸化が重要であることが示されれば、その特異的交代を作成する。主にこれら実験ための試薬購入に加え、本年度はその結果を国内あるいは海外の学会発表を行うための旅費を考えている。
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