本研究において、まずミトコンドリアにおけるカルシウム濃度変化およびATP濃度変化を検出するため、これまでに埼玉大学医学部中井淳一博士、京都大学医学研究科今村博臣博士よりそれぞれのプローブセンサー(カルシウムセンサープローブVLMTS-GCaMPHSおよびATPセンサープローブmitoATeam)をご提供いただき、ミトコンドリア移行シグナルを付加させた発現ベクターを作成した。それら作成したミトコンドリアカルシウムセンサープローブ、ATPセンサープローブを安定的に発現するヒト正常網膜上皮細胞であるRPE、イヌ腎由来正常上皮細胞であるMDCK細胞を樹立した。それらの安定発現細胞を用いて様々な刺激におけるミトコンドリアのカルシウムおよびATP変化の検出を試みたが、増殖因子や細胞密度、細胞運動などによって顕著な変化は確認できなかった。一方、2-デオキシグルコース(2-DC)で細胞にグルコース飢餓刺激を与えると、長く伸びたミトコンドリアが分裂し、小さなミトコンドリアがふえ、それらが積極的に細胞辺縁部に輸送される様子が観察さられた。また、AMPK阻害剤処理により、比較的長く枝分かれしたようなミトコンドリアが多数見られた。このような形態はAMPKalphaをsiRNAにより抑制した場合にも見られた。このことはAMPKが細胞の栄養状態に応じてミトコンドリアの形態制御に関与していることを示唆している。さらに、AMPKの基質がミトコンドリアに存在するかを検討したところ、粗ミトコンドリア画分に複数のAMPK依存的なリン酸化タンパク質を確認した。また、この抗体が免疫沈降に用いることができることも確認した。これらの結果は細胞外の栄養状態をAMPキナーゼがミトコンドリアに何らかのシグナルを伝え、制御していることを示唆する結果であり、ミトコンドリアによる細胞外環境のセンシングの一旦であると考えられる。
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