研究課題/領域番号 |
24790292
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
松丸 大輔 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 学内助教 (50624152)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 器官形成 / ヘッジホッグシグナル / 先天性奇形 / 細胞移動 / 遺伝子改変マウス |
研究概要 |
胎児期の器官形成は、単独の器官の発生・成長に加え、隣接する器官群が相互に影響を及ぼしあいながら協調的に進んでいくと考えられる。胎児後部領域においても、臍帯ヘルニア等の先天性発生異常の患者は近接する複数の器官群が同時に症状を呈すことが知られている。本研究の目的はこのような協調的器官発生のメカニズムを解明することである。 本年度は、泌尿生殖器官群の形成における細胞移動の重要性について解析を行なった。まず正常マウス胚を用いて、臍帯下部領域の細胞を蛍光標識する実験を行なった。その結果、胎児の成長に伴い臍帯下部領域に存在する細胞が外生殖器原基上部側に向かって分布する様子が観察された。また、臍帯下部領域の組織を切除した状態での器官培養実験を行ない、培養の結果、外生殖器上部側が低形成となることを見出した。これらの結果から、臍帯下部領域から外生殖器上部領域への細胞移動現象が存在することが示唆された。次に、同様の細胞標識実験を細胞増殖因子ヘッジホッグ(Hh)シグナル関連遺伝子であり胎児後部領域に異常を示すAlx4遺伝子変異マウスにおいて行ない、同変異マウスは細胞移動に異常を呈することを見出した。Alx4遺伝子変異マウスにおいては、外生殖器内胚葉性上皮におけるShh遺伝子の発現が亢進しており、下流標的遺伝子であるPtc1の発現領域も拡大していた。Ap2α、Pitx1、Mab21l1といった遺伝子(これらの遺伝子の改変マウスは臍帯ヘルニア、外生殖器発生異常あるいは骨盤形成異常を呈する)の発現が減少していた。加えて、細胞外マトリックスの構成成分であり、細胞移動に重要な役割を果たすFibronectinの発現が減少していた。これらの結果は、Hhシグナル系と細胞移動現象の胎児後部器官群発生過程への関与を示唆し、先天性発生異常発症メカニズム解明の一助となると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究項目のうち細胞移動の影響の解析を主として行なった結果、多くの新規知見を得ることができ先天性疾患発症メカニズムの一端を示唆するに至った。研究計画のもう1つの柱である血管・神経系組織の器官形成に及ぼす影響の解析に関しては、一部遺伝子改変マウスにおける神経走行の異常を見出しつつあるものの、解析に使用できる遺伝子改変マウス数が十分ではないため、現在はマウスコロニーを拡大している段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究推進方策としては、胎児後部領域器官(主として外生殖器原基)の形成に血管・神経系組織が及ぼす影響を解析する。固定済み遺伝子改変マウス胚サンプルを用いて、神経系、血管系組織の走行を解析し、正常マウス胚との違いを明らかにする。次に、より早期発生ステージのサンプルを用いて、器官形成の異常と神経血管走行の異常にどのような相関関係があるのかを解析する。これらの解析において、異常血管・神経走行を示す為に外部委託によるイメージング解析を行なう可能性がある。 並行して、前年度導入したRosa26-DTAマウスを用いて、神経、血管組織が死滅した場合における胎児発生異常の解析を行なう予定であるが、神経系、血管系組織におけるCre組換え酵素発現マウスの導入が完了していないため、代替手法として、正常マウス組織を用いた器官培養系において、血管形成阻害剤、神経形成阻害剤の器官形成に及ぼす影響を解析する予定である。同時に、Hh遺伝子改変マウス胚を神経新生因子、血管新生因子存在下で培養し、その影響を解析する。器官培養実験には新鮮な組織サンプルが必要であり、現在、遺伝子改変マウスのコロニー拡大を行なっている。十分量のマウスが確保でき次第、実験に取りかかる予定である。 細胞移動の器官形成に及ぼす影響に関して、Hh遺伝子改変マウス胚と正常マウス胚の間でマイクロアレイ解析を行ない、細胞移動現象に影響を及ぼす因子群についてさらに解析する予定である。前年度同定した臍帯下部領域の細胞群はGli1遺伝子陽性細胞であるため、Gli1遺伝子座に薬剤誘導型Cre遺伝子をノックインしたマウスと、Rosa26-DTAマウスを用いて当該領域の遺伝学的に除去することが可能であると考えられる。この遺伝学的細胞除去実験により、臍帯下部領域の細胞群の重要性を示す事ができると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究では、主としてマウスを用いた個体レベルでの解析を行なうため、マウス飼育経費を計上する必要がある。飼育費用として約80ケージを一年間維持するためには50万円程度の費用が必要となる。また、マウス個体の遺伝型識別や組織解析のための酵素、抗体類の購入と、手術や個体サンプルの保存に用いるプラスチック器具類、組織培養に必要となる試薬類の購入を予定している。また、外部委託する解析として、OPT(Optical Projection Tomography、イギリスBioptonics社)を用いた3Dイメージング解析、胎児組織を用いたDNAマイクロアレイ解析を検討している。情報収集及び研究成果のための国内学会参加旅費2件、国際学会参加旅費1件を予定しており、次年度中に2件の研究成果論文投稿を予定している。
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