研究実績の概要 |
神経細胞はその発生初期から成熟期にかけて電気生理学的性質を、ダイナミックに変化させ、さまざまなカルシウムシグナルの活性の制御が行われる。にもかかわらず、神経回路形成における電気的性質の変化の役割はいまだ不明な点が多い。本研究ではこれまでの研究を発展させ、分子生物学的視点だけでなく、電気生理学的視点を組み込むことで、新たな視点から神経ネットワーク構築メカニズムを明らかにする。これまで小脳顆粒細胞を用いた研究で、膜電位依存的な遺伝子発現制御機構を明らかにしてきた。未成熟遺伝子の活動電位依存性の発現抑制のメカニズムは、成熟遺伝子の発現メカニズムと同様に、静止膜電位の非脱分極化の結果、グルタミン酸受容体の応答性が亢進し、電位依存性ナトリウムチャネルの活性化、電位依存性カルシウムチャネルの活性化、CaMキナーゼIIの活性化、Etv1による遺伝子発現制御という一連のシグナルカスケードによることがわかったが、成熟遺伝子の発現はEtv1と同じEtsファミリーの別の転写因子によっても制御を受けることがわかった。Etv1による未成熟遺伝子を含む多くの遺伝子の発現制御メカニズムは不明であるが、活動電位依存性に発現が上昇する遺伝子に含まれるコリプレッサーの一つがEtv1と相互作用することが分かった。成熟遺伝子と未成熟遺伝子の5’あるいは3’DNA領域を用いたレポーターアッセイで、NPTX, Wnt7など成熟遺伝子の多くの配列で、脱分極条件下で発現が上昇したことと、薬理学的解析との結果から、高次の遺伝子発現制御機構が関与していることが示唆された。
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