研究課題
若手研究(B)
糖鎖が様々な病態に深くかかわっていることが明らかになりつつあるが、これまで糖鎖の合成、あるいは分解だけに絞ったいわばスナップショット的な研究が多く、動的な解析は殆どなされていない。本研究は、単糖の安定同位体で代謝標識した糖鎖をMS測定する方法を確立し、糖鎖の合成から分解に至る一連の過程を代謝回転として動的に捉え、病態における糖鎖の新たな役割を明らかにすることが目的である。本年度は13C2-グルコサミン(GlcN)で標識した糖鎖の質量同位体測定に基づいて代謝回転を求めるプロトコルを確立した。代謝標識した細胞から糖タンパク質由来N結合型糖鎖、O結合型糖鎖を糖アルコール体としてキャピラリーLC-ESI-MSにより簡便に測定するシステムを立ち上げた。糖鎖試料はPVDF膜にDot-blotした全タンパク質画分をN-グリコシダーゼ消化とβ脱離によりN型糖鎖とO型糖鎖を遊離・回収した。13C2-GlcNは糖鎖のGlcNAc、GalNAcおよびシアル酸に取り込まれ、例えばハイマンノース型糖鎖は2つの13C2-GlcNが取り込まれてMSスペクトルがシフトしていることを確認した。糖鎖の合成速度は13C2-GlcNで標識された糖鎖の質量同位体をもとに取り込まれた個数とラベル効率から求めた。糖鎖構造が明らかな肝癌細胞株を用いてモデル実験を行った。各々の糖鎖の合成速度を構造別に比較した。具体的にはN型糖鎖とO型糖鎖、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖、フコースの有無が合成速度に与える影響を検討した。例えば、糖鎖の合成過程が少ないハイマンノース型N型糖鎖やO型糖鎖は、合成過程が複雑な複合型N型糖鎖に比べて、高いラベル効率を示すことがわかった。したがって本法により得られる解析結果は糖鎖の合成速度を反映することが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究は①糖鎖の質量同位体測定に基づく動態追跡法の確立、②モデル実験の実施、③高感度糖鎖解析法の確立、④疾患における変化の探索、という4つの計画から構成される。平成24年度は当初の計画どおりに、計画①と②の基礎的検討を行った。①安定同位体標識グルコサミンで標識した糖鎖をキャピラリーLC-MSにより糖鎖の質量同位体を捉えるシステムを確立した。糖鎖の合成速度はグルコサミンが取り込まれた効率から求めることに成功した。本法により得られる解析結果は糖鎖の合成速度を反映していることが明らかになった。②モデル実験を行い糖鎖の代謝回転を構造にプロファイルした。糖鎖構造が明らかな肝癌細胞株を用いてN型糖鎖とO型糖鎖、ハイマンノース型糖鎖と複合型糖鎖、フコースの有無が合成速度に与える影響を検討した。③高感度糖鎖解析システムの基礎検討を開始した。計画③はプロジェクト開始当初、平成25年度に行う予定であったが、予定より早くシステムが立ち上がったため前倒しで研究を進めた。その一方で、平成24年度に着手する予定であった質量同位体のデータを簡便に解析するシステムの開発、データベースの整備などは全く手つかずのままであり来年度以降の課題として残された。
本研究は①糖鎖の質量同位体測定に基づく動態追跡法の確立、②モデル実験の実施、③高感度糖鎖解析法の確立、④疾患における変化の探索、という4つの計画から構成される。来年度はまず平成24年度に確立した方法の妥当性を検証する。申請者の研究室で解析が進められている糖転移酵素遺伝子のノックアウトマウスから単離・不死化した繊維芽細胞をコントロールとして細胞表面糖鎖の代謝回転を明らかにする。その後は2方向から主に研究を進める。 その一つは予定していたシステムの高感度化である。平成24年度の基礎検討の結果をもとにグラファイトカーボンなどを充填したキャピラリーカラム、ナノLC用カラムを用いた高感度解析システムを確立し、極微量糖鎖の同位体解析を試みる。さらに計画④として疾患特異的な代謝回転の変化を見出すため、細胞増殖を制御するTGFβ受容体糖鎖やグルコース輸送体2の糖鎖の代謝回転を追跡し、糖タンパク質糖鎖の構造的変化と代謝回転について生物学定義を考察する。なお様々な視点から考察するため、様々な分野の研究者と、柔軟性をもって新しい仮説を組み立てて共同研究を進めていく。もう一つの新たな方向性として、プロジェクト開始当初は予定していなかったが本システムを包括的システムとして拡張する。すなわち糖タンパク質のN型糖鎖とO型糖鎖だけでなく、グルコサミノグリカンやスフィンゴ糖脂質など他の複合糖質の代謝回転も評価できるよう実験プロトコルを確立する。昨年度までに確立した糖ヌクレオチドの代謝Flux解析と融合することにより、単糖の代謝から、糖ヌクレオチド、それらがどの複合糖質糖鎖にどの程度取り込まれて利用されてゆくのか追跡する。
該当なし
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