研究課題
糖鎖が糖尿病やがんなどの病態にかかわることが明らかになっているが、これまでは糖鎖の合成あるいは分解だけに絞ったいわばスナップショット的な解析の研究が多く動的な統合的な解析はなされてこなかった。本研究は安定同位体単糖で標識した糖鎖を質量分析により高速・高感度に解析し、病態における糖鎖の代謝回転を捉えて生物学的意義を明らかにすることを目的とする。研究成果は以下のとおりである。1)13C2-グルコサミンで計時的に標識した糖鎖をキャピラリーLC-MSにより同位体測定するシステムを立ち上げ、糖鎖の合成速度と分解速度を簡便に測定することに成功した。代謝標識されたN型糖鎖、O型糖鎖、ヒアルロン酸、糖脂質糖鎖の質量同位体を測定した結果をもとにして、糖ヌクレオチドがどの糖鎖にどの程度取り込まれたのか相対的な寄与を明らかにした。2)コアフコースの有無やシアル酸の結合様式の違いによって糖鎖のラベル効率が異なることを見出し、これらが代謝動態の違いを反映していることを明らかにした。3)肝癌細胞と膵臓β細胞由来インスリノーマにおける糖ヌクレオチドと糖鎖の同位体比較解析により、膵臓β細胞ではUDP-GlcNAc分解経路すなわちCMP-NeuAc合成経路が遅いこと、シアロ糖鎖の合成速度が遅いことを見出した。シアル酸を含む糖タンパク質や糖脂質糖鎖の含量が少なかったことから糖ヌクレオチド代謝が律速となり糖鎖構造に影響を及ぼしていることを明らかにした。4)膵臓β細胞は糖尿病条件下においてヘキソサミン経路と解糖系のUDP-GlcNAc合成経路が亢進していることを明らかにした。本成果はグルコース代謝から糖ヌクレオチド、更に複合糖質糖鎖への合成を追跡した初めて研究例であり、今後更なる解析系の高速化によって単糖代謝、糖質代謝、脂質代謝の流れを追跡する手段として活用されることが期待される。
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