研究課題
MAMLD1は、2006年に同定されたヒトにおける性分化疾患(尿道下裂)の責任遺伝子である。MAMLD1変異陽性男性における尿道下裂は、男性ホルモン産生障害に起因すると推測されている。本年度は、Mamld1遺伝子欠損マウスを用いて、胎生期精巣の男性ホルモン産生におけるMAMLD1/Mamld1の役割を解明することを目的とし、野生型マウス胎仔精巣におけるMamld1遺伝子の発現解析、Mamld1遺伝子欠損マウスの胎仔精巣の形態、胎仔精巣内に存在する男性ホルモン量の測定、胎仔精巣における男性ホルモン産生酵素遺伝子群の発現量変化の解析を中心として研究を行った。遺伝子発現解析の結果、Mamld1遺伝子が胎生中期(胎生12.5日)から後期(胎生18.5日)のマウス胎仔精巣で発現すること、その発現量が経時的に増加することを見出した。また、リアルタイムRT-PCRによる遺伝子発現解析の結果、Mamld1遺伝子欠損マウスの胎仔精巣において、ライディッヒ細胞特異的に発現する遺伝子(Cyp17a1、Hsd3b1など)の発現量が有意に低下していることを明らかにした。しかしながら、Mamld1遺伝子欠損マウスの胎仔精巣の形態および胎仔精巣内のテストステロン量は野生型マウスと比べて違いがなく、Mamld1遺伝子欠損マウスは尿道下裂を示さなかった。ヒトとマウスの表現型の違いは、性分化臨界期の種差やステロイドホルモン生合成の主要経路が異なることに起因すると推測される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、胎生期精巣の男性ホルモン産生におけるMAMLD1/Mamld1の役割を解明するという目的に対して、Mamld1遺伝子欠損マウスを用いて解析を行った。遺伝子発現解析の結果、Mamld1遺伝子欠損マウスの胎仔精巣において、ライディッヒ細胞特異的に発現する遺伝子(Cyp17a1、Hsd3b1など)の発現量が有意に低下していることが明らかになった。このことは、Mamld1が、胎仔精巣のライディッヒ細胞特異的に発現する遺伝子の発現制御に関与することを示唆する。さらに、Mamld1遺伝子が胎生中期から後期のマウス胎仔精巣で発現すること、その発現量が経時的に増加することを見出しており、これはマウス胎仔精巣において報告されているテストステロン合成量の増加と一致する。このことから、Mamld1はテストステロン産生に関与していることが示唆される。これまでの当研究部におけるin vitro解析の結果と本年度のMamld1遺伝子欠損マウスを用いたin vivo解析の結果から、Ad4BPの調節下において、Mamld1はCyp17a1遺伝子の発現調節を介して、テストステロン産生に関与すると考えられる。本研究の解析結果は、性分化疾患を生じるMAMLD1異常症の発症機序の解明に大きく貢献する。
リアルタイムRT-PCRによる遺伝子発現解析の結果、Mamld1遺伝子欠損マウスの胎仔精巣において、ライディッヒ細胞特異的に発現する遺伝子(Cyp17a1、Hsd3b1など)の発現量が有意に低下していることが明らかになった。今後は、Mamld1遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスの胎仔精巣を用いて、マイクロアレイ解析を行い、発現が変動する遺伝子を選定する。アレイ解析で発現変動が認められた遺伝子について、リアルタイムRT-PCRを用いて発現定量を行う。これによりMamld1遺伝子欠損マウスで有意に発現量が変化する遺伝子を特定し、Mamld1の新たな標的遺伝子を同定する。また、胎生後期の精巣におけるMamld1遺伝子発現細胞の同定を行い、Mamld1がどの細胞で機能しているかを明らかにする。胎生期の精巣における男性ホルモン産生には、セルトリ細胞とライディッヒ細胞の両方の細胞が関与していることが示唆されている。そこで、胎生後期の野生型マウス精巣を用いて、section in situ hybridization法にて、Mamld1遺伝子が男性ホルモン産生に関与する細胞(セルトリとライディッヒ細胞)に発現しているか否かを明らかにする。
該当なし
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