研究課題
動脈硬化巣では炎症性マクロファージ(M1)や抗炎症性マクロファージ(M2)などのマクロファージが混在し不均一性を示しており,この局所的な炎症応答バランスと病態進行との関連性が示唆されており,転写因子Nrf2がこのマクロファージ分化に関与しているかどうかを解析した.動脈硬化症モデルマウスであるApoE遺伝子欠損マウスをNrf2遺伝子との二重欠損マウス[ApoE(-/-)::Nrf2(-/-)]を用いて,動脈硬化巣形成に与える影響を解析した.これまでの解析によりApoE(-/-)::Nrf2(-/-)マウスでは,5週間の高脂肪食投与での初期病巣の形成に差はみられないが,12週間投与の後期病巣では抑制が起こることが明らかになっていたので,これらのマウスを用いて5週間,12週間投与での病巣においてRT-qPCR法を用いて経時的にマクロファージの性状に関する遺伝子の発現について解析したところ, 特に12週間投与の硬化巣においてM1を示す遺伝子群が低下していた,また過酸化脂質誘導性マクロファージ(Mox)を示す遺伝子群も低下していた,しかしM2を示す遺伝子群に変化は見られなかった.このことから,Nrf2欠損では後期の動脈硬化巣においてM1またはMoxマクロファージへの分化を抑制することにより病巣を抑制することが示唆された.一方,Nrf2遺伝子欠損による動脈硬化巣抑制の責任細胞を明らかにするために,ApoE(-/-)::Nrf2(+/+)マウスに,ApoE(-/-):: Nrf2(-/-)マウスの骨髄細胞を移植することにより骨髄由来細胞特異的にNrf2の発現を欠損させた.このマウスで後期の動脈硬化巣の形成への影響を比較すると,骨髄細胞特異的にNrf2遺伝子を欠損させると動脈硬化巣が抑制されることが明らかになり,マクロファージのNrf2が動脈硬化巣を促進していることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
慢性炎症である動脈硬化症へのNrf2の影響として,Nrf2は動脈硬化巣の初期病変ではあまり関与していないが,後期の病巣の一部のマクロファージで活性化していることを明らかにした.また,後期の病巣におけるマクロファージの性状に関与することが明らかになり,それが病巣の形成に影響することが示唆された.骨髄移植実験からマクロファージのNrf2が病巣の形成に重要なことが示唆された.これらの結果をまとめた論文が国際学術誌Free Radic Biol Med.に掲載された.
抗炎症性作用のあるNrf2を恒常的に活性化させ,動脈硬化症への影響を解析する.これまでにNrf2を抑制性に制御するKeap1を遺伝子欠損させると, Nrf2が恒常的に活性化することが示されている.Keap1コンディショナルノックアウトマウスを用いることで組織選択的にNrf2を恒常的に活性化させることが出来る.このKeap1コンディショナルノックアウトマウスを用いて,血管内皮細胞またはマクロファージ特異的Nrf2過剰発現マウスを作成して,動脈硬化症に対しての影響を,特にマクロファージの性状に注目して解析して行く予定である.また,病巣においてNrf2の活性化しているマクロファージの性状を明らかにするため,Nrf2遺伝子と蛍光タンパク質を融合した遺伝子をトランスジェニックしたNrf2レポーターマウス(Nrf2の発現した細胞で蛍光タンパク質を発現する)を用いて動脈硬化巣で蛍光を発するマクロファージを集めて,その遺伝子発現などの性状を明らかにする.
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成25年度請求額とあわせ,平成25年度の研究遂行に使用する予定である.
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Free Radic Biol Med.
巻: 53 ページ: 2256-2262
10.1016/j.freeradbiomed.2012.10.001.