研究課題
低酸素応答転写因子(HIF: hypoxia inducible factor)は低酸素を感知し,標的遺伝子の発現を制御し低酸素ストレスに対応させる働きを有している.最近HIFが低酸素ストレス応答だけでなく,様々な生理機能を有していることが分かってきた.特に血管内皮細胞におけるHIF機能は赤血球造血やがんの転移及び浸潤に関与している事が分かってきている.我々はこの研究課題において,in vivo経尾静脈転移モデルを用いて,宿主血管の低酸素応答性とりわけHIF-2alphaの活性が低いとき転移巣形成が低下することを見いだした.肺血管内皮細胞におけるHIF-2alphaの標的遺伝子は様々であるが,この現象には接着因子であるVEカドヘリン及びVCAM-1の関与が示唆された.また低酸素応答に対し抑制性に働くHIF-3alphaが肺血管内皮細胞においてVEカドヘリンを抑制性に制御していることも明らかにした.さらにその機能を細胞生物学的に解析するために,野生型およびHIF-3alpha欠損マウスより肺血管内皮細胞を単離培養し,増殖能および血管形成能の評価を行った.その結果HIF-3alpha欠損細胞においてはVEカドヘリンの過剰産生が認められ,増殖性や管腔形成に影響を与えていることが明らかとなった.さらにHIF-2alphaと同じく経尾静脈転移モデルにて検証した結果,転移巣形成が増加していた.このことからHIF因子群が血管内皮細胞おける接着因子の発現制御を介して転移巣形成に関与していることが明らかとなった.今後はこれらを標的とした転移抑制へと応用するため詳細な解析を進める.
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