平成24年度までの研究結果から、hENT組換えウイルスを産生、シングルクローンの作成を行った。導入遺伝子hENTの発現解析として、ウエスタンブロット法によってhENT発現検定を行い恒常的な発現を確認した。また組換えウイルスにおいて高いウイルス増殖を認め当初の予想と合致する結果であった。組換えウイルスの増殖能力を検討し、フローサイトメトリー解析で感染細胞の状態、アポトーシスによる細胞致死率を算出した。組換えウイルスは正常膵細胞株への感染実験では、細胞毒性を認めなかった。GFP強制発現させた膵臓癌細胞株を利用し腫瘍動物モデルを作成。in vivoイメージング下に腫瘍生着状態を観察した。腫瘍径が一定に達したところでウイルスを腫瘍にインジェクション、腫瘍の変化とprolonged survivalを調べ、組換えウイルスの殺腫瘍効果を検討した。同in vivoモデルにおいて、Gemcitabine投与による腫瘍縮小効果について検討を行い、Gemcitabine投与群において著明な抗腫瘍効果を認めた。 今後は、ウイルス治療中(Gem+/Gem-)の腫瘍担体動物におけるhENTタンパクの発現解析と抗腫瘍効果との関連、腫瘍内でのウイルス拡散程度を検討していく予定である。Oncolytic provirousは静脈投与などの全身投与でもがん細胞選択的に増殖するように改変でき、人為的に導入された遺伝子を腫瘍で発現させるplatformとして非常に有用なウイルスである。大部分の膵癌では、EGFRが強発現しているので、EGFR/Ras経路を認識、複製・導入遺伝子発現、増幅し細胞溶解をもたらす本ウイルスは、膵癌に対し特異的な治療アプローチとなる。hENT増幅操作により抗癌剤感受性が安全に増強できる可能性が示され、本研究の成果が膵臓癌患者に安全で苦痛のない新たな治療の選択肢を提供できるものと考える。
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