現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mob1A,Mob1B単独ホモ欠損マウスには異常はみないが、Mob1A/Mob1Bダブルホモ欠損マウスは着床直後に致死となることを見出した。そこで平成24年度は、(1)後期胚盤胞および ES細胞をin vitroで分化後、細胞系譜マーカーの発現を検討することで、原始内胚葉形成不良が致死の原因であることを見いだした。 (2) 次に Mob1A/Mob1B部分欠損マウスを長期観察したところ、皮膚がん(100%)、骨肉腫、筋線維肉腫、肝がん、乳がんなど様々な腫瘍を全例に認めた。また、これら腫瘍ではLOHを認めたことから、Mob1A/Mob1Bが古典的ながん抑制遺伝子として作用することを示した。(3)またケラチノサイト特異的にMob1A/Mob1Bをダブルホモ欠損するマウスを作製した。このマウス上皮ではK5,14,15,などの未分化マーカーが増加し、K10, filaggerinなどの分化マーカーが減少しており分化障害を認め、ダブルホモ欠損ケラチノサイトは、細胞増殖亢進、細胞死抵抗性、コンタクトインヒビション障害、未分化性や自己複製能亢進、中心体数増加を認めたことから、これらの作用がMob1欠損による腫瘍の発症・進展を加速させた要因であることを示唆した。生化学的には、LATS1/2のリン酸化や蛋白質安定化障害を認め、下流のYAPの強い活性化を認めた。また、Mob1A/Mob1B部分欠損マウスにみられた皮膚がんは、K17陽性の外毛根鞘がんであり、またヒト外毛根鞘がんでは高頻度なMob1A/Mob1B蛋白質の発現低下とYAP1蛋白質の活性化亢進を認めたことから、Mob1を含むHippo経路がヒト外毛根鞘がんの原因遺伝子の一つであることを見出した。このようにMob1A/Mob1Bを介した個体発生や腫瘍発症の有無、その機構の一端を明示した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに作製されたHippo経路分子変異マウスのいくつかにおいて肝がんの報告があること、またMob1A/Mob1B部分欠損マウスを長期観察すると肝がんを発症することから、(1)Alb-Creトランスジェニックマウスを用いて肝細胞に特異的なMob1A/Mob1Bダブルホモ欠損マウスを作製し、肝臓におけるMob1A, Mob1Bの作用を明らかにする。具体的には肝臓や胆管の形態形成・機能変化・腫瘍形成を明示する。さらにAFP, A6, Trap2等の抗体で染色することにより、肝細胞や胆管細胞の分化の障害の有無、肝切除後の肝再生能等も検討する。さらに皮膚と同様に、細胞増殖、細胞死、細胞飽和密度、中心体複製、micronuclei, M期からの離脱時間、幹細胞(オバール細胞)の数も検討する。その他Hippo経路のシグナルコンポーネントの活性変化なども同様に検索する。これらに加えて、(2)SPC-rTA/otet-Creトランスジェニックマウスを用いて、肺胞・細気管支上皮細胞に特異的なMob1A/Mob1Bダブルホモ欠損マウスをも作製し、肺におけるMob1A, Mob1Bのi n vivo作用も同様に明らかにする。このように各組織におけるMob1A/Mob1Bの作用の共通性を明示し、さらにこれまで報告されている他のHippo経路分子の遺伝子欠損マウスの表現型と比較して、Hippo経路の作用の共通性を類推する。
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