研究課題
糖鎖はウイルスや細菌による感染における細胞との認識で重要な役割を果たす. 本研究は感染で重要な、自然免疫におけるToll様受容体(TLRs)へのコアフコース糖鎖付加による機能調節の分子機構の解明を目的とする. 申請者の所属研究チームでは、N型糖鎖にコアフコースを付加するフコース転移酵素(Fut8)の欠損マウスが肺気腫様の病態を示すことを明らかにしている. 肺気腫の形成には喫煙に加え、感染が重要で、マクロファージの機能不全の関与が知られており、肺気腫となるFut8欠損マウスの免疫細胞に機能異常が生じると仮説を立て、実験を行った. その結果、マクロファージに発現するTLR4へのコアフコース付加の減少により、その機能低下を引き起こすことを見出した. そこで本研究では、TLR4へのコアフコース付加による機能制御の機構の解明を目指す.本年度では、コアフコース付加の減少によるTLR4とそのリガンドのグラム陰性細菌の構成成分であるリポ多糖(LPS)に対する反応性の低下のメカニズムをさらに評価するために、TLR4の下流のシグナル伝達経路であるMyD88依存/非依存経路の両方のシグナル分子の活性化の確認を行った. その結果、MyD88依存/非依存経路ともに下流のシグナル分子の活性化が抑制されていた. この結果から、コアフコース付加の減少によりTLR4とLPSとの結合が障害されていることが疑われたため、蛍光標識されたLPSを用いてその結合について評価を試みたが、蛍光強度の問題等で確認できなかった. また、コアフコース付加の減少によるTLR4の細胞表面への局在への影響を確認するために、蛍光標識されたTLR4発現するコアフコース欠損細胞を、レトロウィルスを用いた遺伝子導入により確立することが出来た. 現在はその細胞を用いて、局在の確認を遂行中である.
2: おおむね順調に進展している
本年度で、TLR4の下流のシグナル伝達経路であるMyD88依存/非依存経路の両方のシグナル分子の活性化の確認を行い、MyD88依存/非依存経路ともに下流のシグナル分子の活性化が抑制されていた. この結果から、コアフコース付加の減少によってTLR4シグナルの上流部分、つまりTLR4とLPSとの結合に異常がある可能性が推測された. それにより、検討するポイントを絞ることが出来た. さらに、コアフコース付加の減少によるTLR4の細胞表面への局在への影響を確認するために、蛍光標識されたTLR4発現するコアフコース欠損細胞を、レトロウィルスを用いた遺伝子導入により確立することが出来ている.
次年度では、引き続きコアフコースの発現減少による、(1)TLR4のLPSとの結合への影響と(2)TLR4の細胞表面への局在への影響について明らかにすることを目指す.(1)TLR4のLPSとの結合への影響TLR4に発現するコアフコースの減少による、LPSに対する反応性の低下の原因として、TLR4とLPSとの結合が障害されているかについて検討を行う. ここでは、抗LPS抗体を用いて、コアフコース付加の減少したマクロファージにおける、LPSとTLR4との結合を蛍光顕微鏡観察やFlow Cytometryなどによって解析を行う. さらに、Duolinkという二分子間相互作用を検出することのできるアッセイ法を用いて、LPSとTLR4の相互作用を検出する.(2)TLR4の細胞表面への局在への影響コアフコース付加の減少により、TLR4の細胞表面での発現が低下している可能性についても検討を行う. ここでは、細胞表面タンパク質をビオチン化した後、ストレプトアビジンビーズを用いて細胞表面タンパク質だけを回収し、ビオチン化TLR4の全TLR4に対する割合をウェスタンブロッティングによって定量的に解析する. 同時に、細胞表面におけるTLR4の分解についても検討を行うことも考えている. さらに、コアフコースの欠損したマウス胎仔由来線維芽(MEF)細胞に、蛍光標識したTLR4を発現させることで、コアフコースの欠損によるTLR4の細胞内局在を可視的に追跡することも検討している. なお現在、レトロウィルスベクターを用いたGFP標識TLR4を強制発現させたコアフコース欠損MEF細胞を確立している.
予定していた学会への不参加のため次年度使用額が発生した. この次年度への研究費は主に旅費に充当予定である. 以下に使用計画を示した.DNA組換え試薬; 200,000円、細胞培養培地及び牛胎児血清; 60,000円、TLRリガンドセット150,000円、ELISA キット; 180,000円、実験動物; 200,000円、Duolink キット(二分子間相互作用の観察); 200,000円、定量的PCR関連試薬; 200,000円、リン酸化抗体を含む各種抗体、レクチン; 160,000円、その他一般試薬、プラスチック製品(培養ディッシュ等); 58,956円、旅費(国内旅費); 170,000円、その他(論文別刷り代ほか); 50,000円
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 20 ページ: 112-117
10.1016/j.bbrc.2012.06.081
Journal of Biological Chemistry
巻: 287 ページ: 16699-16708
10.1074/jbc.M111.315333