研究概要 |
本研究では、以前に行った脳腫瘍の網羅的研究(Ikota H, Kinjo S, Yokoo H, Nakazato Y (2006) Systematic immunohistochemical profiling of 378 brain tumors with 37 antibodies using tissue microarray technology. Acta Neuropathol 111:475-482)で作製し、-80℃で保存していた未染切片も用いる。まずこれらを常温に戻して免疫染色に使用するが、マイクロアレイ未染標本には経時的な抗原性の低下が起こりやすいことが報告されている。予備実験としてGFAP, S-100, Olig2などの代表的な神経系組織抗原に対する抗体で免疫染色を行い、適切な陽性所見が得られるかどうかをまず確認した。その結果、未染切片の抗原性が十分保たれていることが示された。 上で触れた未染標本に含まれる症例は、最も新しくても2005年当時のものである。症例数を増やすため、当施設の病理診断支援システムを用いて、直近の症例まで含んだデータベースを作成した。 非腫瘍性全身臓器の組織マイクロアレイ標本もやはり作製から数年が経過している。これについても未染標本の抗原性はよく保たれていた。さらに、新規に購入したアレイヤーを用いて剖検例の全身臓器から組織マイクロアレイを作成し、基礎実験としてHE染色と免疫染色を施行し、良好な染色結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
まず新規にデータベース化した脳腫瘍症例から、組織マイクロアレイ標本を作製する。これには新規に購入したアレイヤーを用いる。次に非腫瘍性臓器における野生型IDH1の発現を検索する。野生型IDH1に対する抗体IDH1 wild type (mouse monoclonal, clone W09, Dianova GmbH, Hamburg, Germany)による免疫染色を行い、細胞質に染色が見られた場合を陽性と判定する。これによりどの器官、臓器に野生型IDH1がどの程度発現しているかなどの基礎データを得る。 次にGliomaにおける変異型および野生型IDH1の発現を検索する。脳腫瘍組織マイクロアレイを用いて、変異型IDH1に対する抗体mIDH1R132H (mouse monoclonal, clone H09, Dianova GmbH, Hamburg, Germany)による免疫染色を行い、細胞質と核の両方に染色が見られた場合を陽性と判定する。陽性か非特異反応かの判別が困難な染色結果が得られた場合はIDH1 wild typeによる免疫染色を追加し、mIDH1R132HとIDH1 wild typeの染色強度の比率を評価する。研究手法の主体は免疫組織化学だが、組織マイクロアレイ標本から核酸を抽出してDNAシークエンスを行うことで、免疫染色の結果を分子病理学的に裏付ける。
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