研究課題/領域番号 |
24790349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前田 大地 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30585500)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
卵巣明細胞腺癌の発生や進展の機序を解明するためには、腫瘍の上皮成分のみならず、間質や嚢胞内容液といった周囲環境に生じる変化を突きとめることが非常に重要である。申請者は既に所属施設で過去25年間に切除された全明細胞腺癌症例(100例以上)の組織像の検討、tissue microarray (TMA)の構築、主要な腫瘍関連蛋白の発現に関する免疫組織化学的解析を済ませている。今回は腫瘍間質や嚢胞内容液といった周囲環境が及ぼす影響を解析する必要性を強く認識し、卵巣内膜症性嚢胞と明細胞腺癌の上皮成分、間質成分をマイクロダイセクションによって分取し、それぞれにおけるマイクロRNA異常を比較検討を行う研究を着想した。また、分泌型マイクロRNAの癌バイオマーカーとしての有用性に着目し、嚢胞内容液中のマイクロRNAを検討する計画を立てた。今年度は明細胞腺癌、内膜症性嚢胞、及びその他卵巣腫瘍の嚢胞内容液採取を継続的に行い、約15例分の嚢胞内容液を蓄積するに至った。 その間に、半定量的PCRによって嚢胞内容液中のマイクロRNAが測定可能か否かについて予備実験を加えてきた。その結果、嚢胞内容液中のマイクロRNAが正確に測定できることが判明したので、卵巣癌に関係していることが知られているマイクロRNAに関して、嚢胞内容液中の濃度を測定する方針とした。具体的にはlet7a、miR16, miR21, miR141, miR181aなどの濃度を測定した。その結果、明細胞腺癌の嚢胞内容液と内膜症性嚢胞の内容液では、これらのマイクロRNAの濃度が異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
嚢胞内容液中のマイクロRNA濃度が測定可能であった点、既にいくつかのマイクロRNAに関して、腫瘍化に伴って嚢胞内容液中の濃度が変化することを突き止めている点、からおおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
症例数を増やし「腫瘍化に伴って変化する嚢胞内容液中のマイクロRNA」の同定を急ぐ。
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次年度の研究費の使用計画 |
明細胞腺癌の発癌に関連するマイクロRNAのin vitroでの実験:同定された明細胞腺癌の発癌関連マイクロRNAにつき、明細胞腺癌細胞株(RMG-I, JHOC-5, OVICE)や培養線維芽細胞を用いて強制発現ないし発現抑制を行う。これらの細胞株の増殖能、浸潤能、化学療法感受性の変化の観察や培養液中の分泌型マイクロRNA量の解析を中心に、細胞生物学的検索を行う。同時に、cDNAマイクロアレイによるメッセンジャーRNA変動の検索も行い、明細胞腺癌の増殖に関わる分子経路の変動や、マイクロRNAターゲットの同定を視野においた情報の獲得をめざす。 マイクロRNAターゲットの選定(TMAを用いる):マイクロRNAはターゲットとするメッセンジャーRNAを抑制することにより作用を発揮するので、そのターゲットの同定は本質的であり、重要である。相補性に基づいて予測されるターゲットはデータベース公開されている(Microscosm(www.ebi.ac.uk/enright-srv/microcosm)、Targetscan(www.targetscan.org)など)。さらにin vitro実験からも遺伝子発現変動は観察可能である。これらの情報を統合して、ターゲット予測を行う。さらに実際のターゲットを選び出すにあたって、我々はTMAを用いる。すなわち、明細胞腺癌、非明細胞腺癌、内膜症性嚢胞を含むTMAを用いて、ターゲット候補に対応する蛋白の免疫組織化学を施行する。これにより、明細胞腺癌の発癌過程で実際に変化しているターゲットを同定する。 臨床病理学的検討:本研究に用いる検体に関しては性別、年齢、既往症、腫瘍病期、予後といった臨床的因子を全て把握することができる。明細胞腺癌の進展や予後不良性について上皮成分、間質成分、嚢胞内容液のマイクロRNA発現異常の観点から検証する。
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