胆嚢癌症例の背景粘膜では慢性胆嚢炎を伴っていることが多いことに着目し、我々は慢性胆嚢炎の解析を行い、癌組織のみならず慢性胆嚢炎粘膜上皮にも酸化的ストレスによるDNA傷害・ゲノム不安定性の亢進・TP53遺伝子変異が頻度は少ないながらも既に生じていることを示してきた。そこで慢性胆嚢炎粘膜・胆嚢癌及び背景粘膜或いは膵胆管合流異常胆嚢粘膜においてプロテオミクス解析を行い、胆嚢発癌経路における段階的タンパク発現異常を同定することで「慢性胆嚢炎における酸化的ストレス-遺伝子不安定の亢進-遺伝子異常の蓄積-タンパク発現異常-癌化」という発癌機構を分子病理学的に証明することを目的とした。 平成25年度までに種々の程度の胆嚢炎症例160例、胆管癌33例、胆嚢癌7例と、前癌病変である膵胆管合流異常症2例、胆嚢腺腫4例の胆汁・非腫瘍部胆嚢粘膜の新鮮凍結材料を収集した。一部の症例については腫瘍部の新鮮凍結材料も採取できた。 胆汁のプロテオーム解析について、当初は二次元電気泳動法を用いて解析を進める予定であったが、分離スポット数が少なくまた泳動結果も不良であった。一部のスポットについてMS解析を行ったところ、有用な結果が得られなかった。そこで胆汁前処理とタンパク抽出法について再検討を行いつつ、LC-MS解析法への手技変更を進めた。 LC-MS法で胆汁の正常コントロール例・胆嚢炎・胆嚢癌症例の少数例での解析を行ったところ、胆嚢癌でのみ検出されたタンパクを8種、胆嚢癌では検出されなかったタンパクを11種類同定した。引き続き解析を行っている。
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