研究課題
肺腺癌由来A549細胞の培養上清中から濃縮したエクソゾーム含有タンパク質を免疫源に用いた単クローン性抗体を網羅的に作製した。樹立した39抗体についてホルマリン固定細胞標本を用いて免疫染色した結果、細胞質、細胞膜、核膜など様々な局在を示すことが確認された。これらの39抗体について124例のホルマリン固定パラフィン包埋肺癌組織マイクロアレイを用いた免疫染色により組織診断マーカーとしての有用性を評価したところ、No.1965抗体の反応性は粘液産生性と相関しており(p=0.0008)、扁平上皮癌に比べ、腺癌で有意に染色性が強いことが示された(p=0.007)。またNo.1979抗体は扁平上皮癌に比して腺癌で染色性が有意に高い(p=0.00017)だけでなく、腺癌において腫瘍径や分化度、血管侵襲の有無と有意に相関することが確認された(それぞれp=0.00559, p=0.00114, p=0.04065)。また、血清診断マーカーとしての有用性について、肺癌患者血清(27例)と健常者血清(8例)を用いたドットブロット法により評価した結果、No.1962抗体の反応性は健常人血清に比して肺癌患者血清で有意に高値を示した(p=0.00177)。No.1970抗体は健常人と肺癌患者血清との間では有意な差は無いが、腺癌患者8例中2例で明らかに高い反応性を示しており、腺癌特異的なマーカーとなる可能性が示唆された。癌細胞由来のエクソゾームはレシピエント側の細胞の性質を自身が増殖・浸潤しやすいように変化させることが知られている。こうした働きを獲得した抗体が中和抗体として抑制可能か確認するため、抗体添加の有無による腺癌細胞の増殖能への影響をMTTアッセイにより評価した。その結果、抗体を添加しないコントロール細胞に比して、増殖能が10%以上低下した抗体が10個含まれていた。
2: おおむね順調に進展している
エクソゾーム含有蛋白質を免疫源に作製した単クローン性抗体について少数例の検体を用いて組織診断マーカー並びに血清診断マーカーとしての有用性の評価を行った結果、有望な抗体が複数個検出されている。それらの抗体が認識する抗原タンパク質の同定に少々手間取っているが概ね実験計画通りに進んでいる。
次年度では組織診断マーカーとしての有用性を多検体のホルマリン固定材料を用いた免疫染色により評価するとともに、多検体の肺癌患者血清を用いたドットブロット法により血清診断マーカーとしての有用性を確認する。また、作製した抗体が認識する抗原についても有用性の高い抗体から順に免疫沈降法や二次元免疫ブロット法により抗原同定を進めていく。
エクソゾーム含有蛋白質に対する単クローン性抗体を作製し、少数検体を用いたスクリーニングに多少時間がかかり、抗体の抗原同定まで進まず予定よりも使用額が少額となったため次年度は抗原同定を進め、その抗原に対応する合成蛋白質の購入やプロテインアレイを用いた検体処理のハイスループット化を目指すための費用として使用する。
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