研究課題
肺癌は膵癌とともに難治性癌の代表であり、早期診断に有用な特異的マーカーが少なく、初診時の多くが進行癌であることが予後不良の一因である。早期診断に有用なマーカーの獲得のため、肺腺癌由来A549細胞のエクソゾーム含有蛋白質を免疫源として39個の単クローン性抗体を作製した。血清診断マーカーとしての有用性を肺癌患者と健常者の血清を用いたドットブロット法で評価した結果、健常者に比して肺癌患者で有意に高値(p=0.00177)を示す1962抗体と、他の組織型に比して腺癌患者で高い反応を示す1970抗体に着目した。1962抗体と1970抗体の抗原をプロテオーム解析により同定した結果、1962抗体はMTAPを、1970抗体はVimentin (VIM)を認識していた。MTAPは尿中エクソゾームで報告があり、様々な腫瘍で高頻度にMTAP遺伝子のdeletionや高メチル化によるMTAPの欠損が認められている。VIMは間葉系細胞に発現する中間径フィラメントであり、腫瘍細胞では接着や運動能、細胞シグナル伝達等への関与が報告されている。また、肝細胞癌では血清VIM値が腫瘍径2㎝以下の患者群で高値を示すことから有用な血清診断マーカーであることが示唆されている。本研究でも高い血清VIM値を示す肺腺癌患者が存在したことから、肺腺癌の早期血清診断マーカーになり得る可能性が示唆された。免疫染色で肺腺癌特異的な染色性を示す1949抗体の抗原はMUC5Bであった。同じMUC5Bを抗原とする1292抗体を用いた実験によりMUC5Bが肺腺癌の鑑別診断マーカー並びに独立した予後不良因子であることを報告(Sci Rep 2015, 5, 8649)したが、両者の染色性は、1292抗体が低分化な腺癌の細胞質に強く染まるのに対し、1949抗体は高分化な腺癌の粘液様物質に強い傾向を示した。この染色性の差異(翻訳後修飾や立体構造の変化等)と肺腺癌の悪性度との関連が予想され、今後より詳細な検討が必要である。
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Scientific Reports
巻: 5 ページ: 8649(1-7)
10.1038/srep08649