研究課題/領域番号 |
24790361
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 博之 北里大学, 医学部, 講師 (60377330)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 胃腺癌 / 胃腺腫 / β‐カテニン |
研究概要 |
消化器内視鏡技術の進歩により術前生検組織での良悪性境界病変群(腺腫と超高分化型腺癌)の鑑別診断に苦慮する機会が増えた。β-カテニンは、ある種の条件下で転写因子として腫瘍発生や形態形成に関与する。本研究は、本研究は、胃腫瘍におけるβ-カテニンシグナル系の機能を腫瘍形態の観点から分子及び細胞レベルで解明し、良悪性境界病変群の発生過程における役割を明らかにする。さらに、本シグナル系を用いた同病変群の新たな病理組織学的鑑別診断ツールの確立を目的とする。 H24年度は研究の第1段階である内視鏡的粘膜下層剥離術で採取された胃組織標本を収集し、腺腫と超高分化型腺癌の鑑別診断のうえで重要な核・構造異型の所見の定量化を検討した。再現性と判定しやすさで優れていたのは、核異型では核偽重積の程度のスコア化、構造異型ではbuddingを示す腺管数の判定で、それらの積を異型スコアとした。腺癌は腺腫より異型スコアが統計学的に優位に高くなった。次に第2段階であるβ-カテニンの免疫組織化学を施行し、その核陽性率を判定した。β-カテニンの核陽性率は腺腫より腺癌で統計学的に優位に高くなった。また、β-カテニンの核陽性率は異型スコアおよびbuddingを示す腺管の個数と正の相関を示した。 以上より、形態では鑑別が難しい腺腫と腺癌の異型の違いを定量化することにより両者の鑑別に客観性を持たせることが出来る可能性が示唆された。また、異型の出現にβ-カテニンの核発現が何らかの関与を有すると考えられ、最終目的であるβ-カテニンシグナル系による腺腫と超高分化型腺癌の病理組織学的な新規鑑別診断ツールの開発に繋げられる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画において平成24年度は、症例を収集し、病理組織学的指標(異型スコア)の決定、β-カテニンシグナル系と腫瘍形態との関連性の検討を予定していた。 症例の収集に関しては、A群(生検で腺腫Group 3、ESDでも腺腫):50例、B群(生検で癌の断定困難な腫瘍性異型上皮Group 4、ESDで高分化型管状腺癌):50例、C群(生検で高分化型管状腺癌Group 5、ESDでも高分化型管状腺癌):50例、D群(粘膜下組織浸潤癌):50例を目標としていた。実際に収集出来たのは、A群26例、B群67例、C群47例、D群64例であった。腺腫群でESDが施行された症例は少ないが、統計学的検討は可能な量と考えられた。なお、A群26例中、6例は術前の生検検査では腺癌との鑑別がやや難しい症例であった。生検でも腺腫の診断が可能であった症例をA1群、生検では腺癌との鑑別がやや難しかった症例をA2と細分類し、A2群(腺癌と鑑別が難しい腺腫)とB群(腺腫と鑑別が難しい腺癌)の鑑別などについて検討予定である。 異型スコアは、比較的判定が容易で再現性のある点を重視して決定した。異型スコア単独では腺腫と腺癌を完全に鑑別することは出来ないものの、腺腫と腺癌で統計学的に有意差が見られた。現時点ではβ-カテニンシグナル系の中でβ-カテニンのみ腺腫と腺癌での発現の違いに加えて、異型スコアとの関連性を検討した。また、次年度に予定している分子病理学的検討に備えて、対象症例やコントロールサンプルのDNAのパラフィンブロックからの抽出も進めている。 以上より、概ねコントロール実験で予想された結果が得られており、研究の進行もほぼ計画通りに進んでおり、現在までの達成度は概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、β-カテニン以外のβ-カテニンシグナル系関連分子も加えて、異型スコアやβ-カテニン核発現との関連性を検討する。まずは、β-カテニンシグナル系の中でβ-カテニンの上流にあたるpAktやPIK3CAなどの検討を考えている。免疫染色によるpAktやPIK3CAの発現を評価し、β-カテニン核発現との関連性について検索する。PCR-direct sequence法にて、β-カテニンシグナル系関連分子における遺伝子変異の有無を検索し、β-カテニン核発現の原因について探求する。PIK3CAについては、gene copy numberも測定し、β-カテニン核発現との関連を検討する。 さらに、胃癌培養細胞株でβ-カテニンシグナル系関連分子の活性化と形態変化の関連性を明らかにする。 上記の結果を総括し、腺腫と超高分化型腺癌の病理組織学的鑑別診断へのβ-カテニンシグナル系の応用を図ると同時に、胃の腺腫と超高分化型管状腺癌の病理組織鑑別診断ツールを作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の主な研究内容はβ-カテニンシグナル系の分子病理学的検討になる。 β-カテニン以外のβ-カテニンシグナル系関連分子についての免疫染色による検討の為、抗体を購入する。 β-カテニン遺伝子エクソン3や他のβ-カテニンシグナル遺伝子において、PCR-direct sequence法で遺伝子の変異の有無の検討に必要となる、パラフィンブロックからのDNA抽出用試薬、PCR用試薬、電気泳動後のゲルよりDNAを抽出用試薬、シークエンス反応用試薬の購入のために研究費を使用する。 また、β-カテニンシグナル遺伝子におけるコピー数の測定が有用である可能性があり、copy number assay用試薬の購入のため研究費を使用する。
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