研究課題/領域番号 |
24790361
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 博之 北里大学, 医学部, 講師 (60377330)
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キーワード | 胃腺癌 / 胃腺腫 / β-カテニン |
研究概要 |
胃良悪性境界病変群(腺腫と超高分化型腺癌)の鑑別診断に苦慮する機会が増えた。本研究は、胃腫瘍におけるβ-カテニンシグナル系を用いた胃良悪性境界病変群の新たな病理組織学的鑑別診断ツールの確立を目的とする。 これまで、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で採取された胃組織標本のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で、核異型と構造異型から、腺腫と腺癌の鑑別に有用となり得る異型スコア判定方法を考案していた。また、免疫染色でβ-カテニン核集積率がでは、腺腫より腺癌で有意に高値を示した。β-カテニン核集積率と異型スコアおよび構造異型(分岐腺管数)スコアには正の相関を認めていた。 H25年度は、術前の生検HE標本でも異型スコアの有用性を確認した。β-カテニンのエクソン3の塩基配列解析を行ったところ、点突然変異は腺癌86例中2例で、腺腫にはβ-カテニン遺伝子変異は認められなかった。β-カテニン核集積はβ-カテニン遺伝子変異との関与が低かったことから、β-カテニンの上流分子のpAkt、PIK3CA、PTENの免疫染色を施行したところ、PI3K/Aktシグナル伝達系は胃腫瘍のβ-カテニン核集積に関与している可能性が考えられたが、腺腫と腺癌の鑑別には有用性は低い結果となった。PIK3CAのcopy number assayも腺腫と腺癌の鑑別には有用ではなかった。β-カテニン核集積パターンは、small clusterとdiffuseのパターンは腺癌のみに見られた。β-カテニンの癌幹細胞との関連を予想し癌幹細胞マーカーのALDH1の免疫染色を施行したところ、ALDH1がβ-カテニンのsmall cluster陽性部に一致する傾向が見られた。以上より、異型スコアおよびβ-カテニン核集積には意義があり、核集積率および染色パターンは腺腫と腺癌の鑑別に有用となり得ると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間内に明らかにすることを目標とした項目は、β-カテニンシグナル系による胃の良悪性境界病変群に属する腺腫と超高分化型腺癌の形態形成過程の解明と、新規病理組織診断ツールの確立である。 詳細には、1)良悪性境界病変群における形態学的判定スコア(異型スコア)の確立。2)同病変群における核内β-カテニン集積とその遺伝子異常の検索、およびその関連分子(pAkt, ALDH1など)の発現と異型スコアとの関連性。3)胃癌培養細胞における変異型β-カテニン過剰発現による細胞形態変化の誘導。4)1)―3)の結果に基づいた胃良悪性境界病変における新規病理組織学的鑑別診断ツールの確立である。 1)は2)のβ-カテニン核集積についてはH24年度までに概ね解析していた。 H25年度は2)についてほぼ終了した。胃腺癌においては、β-カテニン核集積とβ-カテニン遺伝子変異の関連が弱かったため、3)の検討の必要性がなくなったが、異型スコアとβ-カテニン核集積率が胃良悪性境界病変における新規病理組織学的鑑別診断ツールとして有用である可能性が示唆された。データの解析、結果のまとめと考察などを行い、学会発表準備や論文作成を進めており、現在までの達成度は概ね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得られたデータを解析し、結果をまとめ、考察を加える。本研究成果を総括し、学会発表や論文作成を進める。学会発表では、他の研究者のご意見も聞き、大局的な視点で、異型スコアやβ-カテニン核集積が胃良悪性境界病変における新規病理組織学的鑑別診断ツールとしてふさわしいかどうかをさらに吟味し、有用な組織学的鑑別診断ツールの作成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究開始時点では、培養細胞を用いた研究が有用となる可能性を予想していたが、必要性が低い結果となった。培養細胞実験にかかると考えていた分の費用が本年度未使用となった。 今後、データの解析、結果のまとめ、考察に進む際、必要となるものの費用にあてる。また、結果の吟味の結果、追加実験が必要となった場合には、その実験試薬や器具の購入費に使用する可能性もある。
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