研究実績の概要 |
近年、胃良悪性境界病変群(腺腫と超高分化型腺癌)の鑑別診断に苦慮する機会が増えた。本研究は、胃腫瘍におけるβ-カテニンシグナル系を用いた胃良悪性境界病変群の新たな病理組織学的鑑別診断ツールの確立を目的とした。 研究期間内に明らかにすることを目標とした項目は、β-カテニンシグナル系による胃の良悪性境界病変群に属する腺腫と超高分化型腺癌の形態形成過程の解明と、新規病理組織診断ツールの確立である。詳細には、1.良悪性境界病変群における形態学的判定スコア(異型スコア)の確立。2.同病変群における核内β-カテニン集積とその遺伝子異常の検索、およびその関連分子(pAkt, ALDH1など)の発現と異型スコアとの関連性。3.胃癌培養細胞における変異型β-カテニン過剰発現による細胞形態変化の誘導。4.1)―3)の結果に基づいた胃良悪性境界病変における新規病理組織学的鑑別診断ツールの確立である。 H26年度では、H24、25年度で得られた結果を基にしてデータの解析、結果のまとめと考察などを行った。まとめた結果は以下の通りで、1.異型スコア(異型腺管の核偽重積x分岐異常腺管数)は、腺腫より腺癌で有意に高値を示した。2.核内β-カテニン集積は、腺腫より腺癌で有意に高く、かつ、異型スコア、特に分岐異常腺管数因子と正の相関を示した。3.一部の分岐異常部では、核内β-カテニンと共に、癌幹細胞マーカーのALDH1が発現していた。4.β-カテニン遺伝子異常は、2/86例(2.3%)であった。5.核内β-カテニン集積とpAkt発現は、正の相関を示す傾向があった。 以上より、異型スコアと核内β-カテニン集積のデータを検討しcut off値を定めてフローチャートを作成することにより、胃良悪性境界病変群(腺腫と超高分化型腺癌)の新たな病理組織学的鑑別診断ツールを確立した。
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