研究課題
申請者は,膵癌の特徴的な病理組織像である,孤在性浸潤(SCI)に着目し,SCIが高頻度の症例は予後不良であることを報告した (Hum Pathol 2010).膵癌SCIが高頻度にみられる症例において高発現していた候補分子群の中から,TGFb signalの中心分子SMAD3,孤在性癌細胞・間質相互作用に重要なintegrin b4(ITGB4)に注目した.本年度実施した研究実績は,以下の3項目である.1)膵癌におけるSMAD3高発現:膵癌手術症例を用いた免疫組織学的検討では56/113症例でSMAD3高発現がみられ,SMAD3高発現は分化度/リンパ節転移/上皮間葉移行(EMT)様組織像と相関し.独立した予後不良因子であることが示された.膵癌細胞株を用いてsiRNAによるSMAD3のノックダウンを行うと,SMAD4遺伝子異常の有無に関わらず.E-cadherinの発現増加,Vimentinの発現減少,細胞運動性低下が誘導された.以上からSMAD3高発現は膵癌悪性化に関わる予後不良因子であり,さらにTGFb signalを介さないSMAD3活性化機構によるEMT signalの重要性が示唆された.2)膵癌におけるITGB4高発現:膵癌手術検体を用いた免疫組織学的検討では71/134症例でITGB4高発現がみられ,ITGB4高発現はEMTマーカー/低分化/リンパ節転移と相関し,独立した予後不良因子であることが示された.膵癌細胞株を用いた蛍光染色により,EMTの過程でITGB4の細胞局在が細胞間細胞膜から,細胞質/細胞先進部/filopodiaに変化することが確認された.siRNAによるITGB4のノックダウンを行うと,細胞運動性が低下した.さらにITGB4強制発現膵癌細胞では,E-cadherinの発現減少,Vimentinの発現亢進,細胞運動性亢進が誘導された.以上からITGB4高発現はEMTに関連した運動性や浸潤性を高め,膵癌の悪性化に関わり,ITGB4が膵癌の新規悪性度マーカーとなる可能性が示唆された.3)研究成果の発表:研究成果の一部を海外の学会にて発表し.1)については原著論文(Lab Invest 2014)に採用された.
2: おおむね順調に進展している
申請者は,膵癌に比較的特徴的な病理像である癌細胞が間質内で単独に浸潤する像,孤在性浸潤に着目し,孤在性浸潤の高度な膵癌は予後不良であることを報告した.本研究では,膵癌組織の網羅的遺伝子発現解析を用いて,孤在性癌細胞で発現する分子の同定とその機能解析を行い,膵癌の悪性度診断や新規治療法の開発へと展開するための基盤となる研究を行う.具体的な研究項目は,1)網羅的遺伝子発現情報から膵癌孤在性浸潤に関わる分子候補の絞り込み,2)孤在性浸潤癌細胞に発現する分子の同定・臨床病理学的意義の検討,3)膵癌細胞株を用いた機能解析・分子機構の解明,4)移植マウスモデルを用いたin vivo機能解析である.本年度までに項目1-3は概ね終了し,その研究成果のうち,膵癌におけるSMAD3高発現の意義に関する原著論文をまとめ,それが採用されている.現在は,膵癌におけるITGB4高発現の意義に関する原著論文を作成・投稿中であり,当初の計画通り研究は概ね順調に進展していると考える.
平成26年度の研究は,以下の研究項目を順次行う.1) 移植マウスモデルを用いた膵癌孤在性浸潤に関わる分子のin vivo機能解析:本研究項目では,SMAD3ならびにITGB4を安定的に強制発現またはノックダウンした膵癌培養細胞株を,当研究室で飼育可能な免疫不全マウスの膵臓に移植し,ヒト膵癌に近い状況における転移能や造腫瘍能を評価する.膵癌患者では高率に肝転移およびリンパ節転移を起こすので,特に肝臓とリンパ節への転移に差がでるかどうかをみる.2) 臨床応用に向けた研究成果の発表,基盤形成:研究成果を国内外の学会で発表し,平成26年度に原著論文として報告する.一方で,当研究室で蓄積している,膵癌切除検体の凍結サンプルや患者血清を利用して,例えば注目分子が血清で検出可能かどうか等を検証し,臨床応用の実現方向性を模索する.
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Laboratory investigation
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10.1016/j.humpath.2013.11.017.
http://www.keio-pathology.net/index.html