研究実績の概要 |
申請者は,膵癌の特徴的な病理組織像である,癌細胞が間質内で単独に浸潤する像,孤在性浸潤(Solitary cell infiltration, SCI)に着目し,膵癌の中でもSCIが高頻度の症例は予後不良であることを初めて報告した (Hum Pathol 2010).本研究では,マイクロアレイ解析を通して得られた網羅的遺伝子発現情報を用いて,孤在性癌細胞で発現する分子の同定と機能解析を行い,難治性がんの代表である膵癌の悪性度分子診断や新規治療ターゲットの開拓へと展開するための基盤となる研究を行う.病理情報と網羅的遺伝子情報を組み合わせることで、患者組織で起きている現象のキー分子を絞り込み、その分子機構に迫るという手法が、本研究の特色といえる。 研究期間全体で得られた成果は概ね以下の4項目である。1) 網羅的遺伝子発現情報から膵癌SCIに関わる分子候補の絞り込み(膵癌におけるEMT signature genesの絞り込み)。2) SCI高頻度群で高発現する分子候補の内,TGFbetaシグナルの中心分子SMAD3,孤在性癌細胞・間質の相互作用に重要と予想されるintegrin beta 4(ITGB4)に特に注目すると、いずれの分子も弧在性癌細胞に発現が認められた。3)SMAD3を高発現する膵癌は予後不良であり、SMAD3の高発現は膵癌細胞におけるSMAD4非依存的EMTの誘導に関わることが明らかとなった(Yamazaki K, Masugi Y, et al. Lab Invest 2014)。4) ITGB4を高発現する膵癌は予後不良であり、ITGB4が膵癌細胞の浸潤先端あるいはフィロポディアに局在することを示し、さらにITGB4の高発現が浸潤、EMTの誘導に関わることを明らかにした(Masugi Y, Yamazaki, et al.Lab Invest 2015)。
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