研究概要 |
唾液腺悪性腫瘍は稀であるが組織学的に多様で組織分類も数多く存在し、しばしば診断に難渋する。分子生物学的な情報を加味した上での組織診断の再構築が必要である。 我々はSRY-related HMG-box 10(SOX10)蛋白に着目した。SOX10は神経堤の分化および成熟にかかわる転写調節因子である。大唾液腺組織においても発現があるとの報告があるが詳細については今まで論じられることはなかった。我々の免疫組織学的検討ではSOX10蛋白は非腫瘍性唾液腺の腺房から介在導管レベルのluminal, abluminal cellの両方に発現するが、腺状導管から集合管レベルでは発現がないことが分かった。今まで汎用されてきた上皮・筋上皮マーカー(p63、SMA, calponin, CK5/6, S100, GFAPなど)とは異なる特有の発現パターンを呈していた。また76例の悪性および14例の良性を含む唾液腺腫瘍による検討でSOX10は上述の上皮・筋上皮マーカーとは異なった発現パターンを示しており、SOX10陽性腫瘍(腺房細胞癌、上皮筋上皮細胞癌、筋上皮癌、腺様嚢胞癌、腺癌NOSの一部、多形腺腫、筋上皮腫)と陰性腫瘍(導管癌、粘表皮癌、オンコサイト癌、オンコサイトーマ、ワルチン腫瘍)に2分されることが分かった。形態学的に特定の組織型に分類が困難で腺癌NOSと診断されていた症例が、SOX10蛋白の発現の有無によってどちら側のlinegeに由来するものが分かり、特定の組織診断型に分類する一助となる。 Sox10-Venusトランスジェニックマウスの胎児期から成体を用いた検討では、大唾液腺組織発生の各段階で腺房細胞から介在導管レベルでSOX10蛋白の発現が一貫して認められた。 以上からSOX10は組織診断および組織発生を理解する上で実用的なマーカーで、組織診断の再構築のためにも有用である。
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