研究課題
我々は健常人由来およびDystrophinエクソン44欠損のDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)患者由来のiPS細胞を骨格筋細胞に分化させ、電気刺激による筋収縮を誘導し、Ca2+のイメージングを行った。Fluo-8を使用し収縮に同期したCa2+のオシレーションが確認できた。次にFluo-8の蛍光強度をAquacosmos(浜松ホトニクス)のシステムを用いて定量的に解析し、Ca2+の細胞内濃度を測定した。ピーク時の濃度をベースラインで補正した値を比較すると、DMD患者由来の骨格筋細胞でピーク時のCa2+濃度の上昇が確認された。この結果により、病態が再現できたと考えられる。また中井淳一博士より提供されたG-CaMP-HSについても解析を試みたが、検出感度に達せず断念した。他の病態再現モデルとして、ROSシグナルに関しては、蛍光プローブを用いて検出を行ったが、DMD患者由来の骨格筋細胞と健常人由来の骨格筋細胞において明らかな差は認めなかった。現在、物理的ストレス負荷後において差があるかどうかを解析中である。NF-kBシグナルについては、ウエスタンブロットにてリン酸化されたp65などの検出を試み、現在条件検討中である。またエクソンスキッピング誘導に関しては、神戸学院大学の松尾雅文博士からAO85と呼ばれるアンチセンスオリゴを提供していただき、エクソン45スキップの誘導実験を行った。結果はAO85を200pg骨格筋細胞内にトランスフェクションすると、エクソン45がほぼ100%スキップされ、患者由来骨格筋細胞においてはエクソン43からエクソン46がつながったmRNAが検出された。この結果により、適切なコントロール細胞を得ることが可能になったと考える。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた研究項目のうち本年度に行うとされていたものは、1)患者由来及び対照健常人由来ヒトiPS細胞からの骨格筋細胞への分化誘導、2)物理的ストレス培養による病態再現、3)病態の可視化、4)アンチセンス・モルフォリーノオリゴ製剤によるエクソン・スキッピング誘導、の4項目である。このうち1)は完了、2)もCa2+イメージングで達成しており、3)、4)とも途中の段階ではあるが達成している。以上より、おおむね順調に進行していると考える。
今後は細胞内Ca2+イメージングに焦点を絞り、病態再現の最大の課題であるエクソンスキッピング後の患者細胞において、表現型が改善するのか?という疑問を解決する。Dystrophinタンパクのウエスタンブロットによる検出に手間取ったが、なんとか成功しており、今後はタンパク発現を回復した患者由来骨格筋でのCa2+イメージングのデータを蓄積し、エクソンスキッピングによる治療効果が可視化できるのかどうかを明らかにする。
Ca2+イメージングの試薬や培養試薬の購入が中心となる。論文化できた場合は英文校正料などにも使用したい。設備・備品の購入はない。
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PLOS ONE
巻: 4 ページ: e61540
10.1371