昨年度用いたエクソン44欠損患者由来に加え、本年度からエクソン46-47欠損のDMD患者から樹立されたiPS細胞も使用した。昨年度に成功していたCa2+イメージングについて、より客観的でスクリーニングに適した解析を考え、96ウェルプレートで同時に測定可能な機器を用いて電気刺激による筋収縮時の細胞内Ca2+濃度を測定した。結果は健常コントロールに比べDMD患者由来細胞で収縮時のCa2+が高かった。より精密な比較を行うため、同一の患者細胞を用いてエクソンス・キッピングによりジストロフィンの発現回復を行った。神戸学院大・松尾教授との共同研究によりエクソン45をスキップするアンチセンスオリゴAO88を用いた。結果はAO88を用いたジストロフィンの発現回復により、同一のDMD患者由来筋細胞において、筋収縮時のCa2+濃度が低下した。 次に細胞内Ca2+の過剰な上昇が筋細胞の障害を来すのかどうか、イオノフォアを用いたCa2+負荷実験で培養上清中のCK活性を測定する事により検証した。結果はCa2+濃度の上昇はDMD患者由来細胞で強く起き、同時にCK値も高くなることが分かった。 これまで患者由来細胞を用いた病態研究は、筋芽細胞の初代培養を用いて行われてきた。しかしDMD患者由来筋芽細胞は、増殖が遅い・分化効率が落ちるなど、そもそも患者体内の炎症性変化を受けて性質が変化しているため、DMDの初期病態を正確に反映するモデルとは言えない一面があった。今回DMD患者由来iPS細胞からの分化誘導では、ジストロフィン発現の有無以外には健常細胞との差はなかった。その環境下で患者由来細胞において筋収縮時に細胞内Ca2+濃度が上昇する事を捉えたことは、DMDの初期病態を反映していると考えられる。今後、この疾患再現系を用いての創薬スクリーニングへと移行可能である。
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