胞巣状軟部肉および一部の腎細胞癌で認められるASPL-TFE3融合遺伝子は、転写因子として機能し、その標的分子は腫瘍発生に関与することが指摘されている。本研究課題では、ASPL-TFE3標的分子を同定し、その分子機能を解析することで腫瘍発生のメカニズムを明らかにすること目指している。これまでに、ASPL-TFE3がAktならびにMAPKシグナル伝達系に含まれるシグナル伝達関連因子を直接の標的分子とし、これらシグナル伝達系の活性に影響を及ぼすことを見出した。そこで本年度は、この標的分子が腫瘍の悪性度や転移能に与える生物学的影響について内因性ASPL-TFE3発現細胞(FU-UR1細胞)を用いて解析を行った。 FU-UR1細胞にシグナル伝達関連因子のsiRNAを導入しその発現を抑制したところ、Aktのリン酸化レベルが低下し、下流シグナル因子の活性も減少した。さらに、シグナル伝達関連因子のsiRNAを導入したFU-UR1細胞では、コントロールsiRNAを導入した細胞と比べ、細胞遊走能および浸潤能が著しく低下していた。また、シグナル伝達関連因子の発現抑制によりFU-UR1細胞の細胞接着性と足場非依存性のコロニー形成能が抑制された。 以上より、ASPL-TFE3融合遺伝子は直接の標的分子であるシグナル伝達関連因子を高発現に導くことにより、AKT/PI3kシグナル伝達系の異常を誘導することが明らかとなった。また、ASPL-TFE3は本シグナル伝達関連因子を介して、腫瘍細胞の運動能や転移能を促進することが明らかとなり、腫瘍の悪性度や転移能に寄与する腫瘍化促進メカニズムの1つであることが示唆された。
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