研究課題/領域番号 |
24790389
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
市戸 義久 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (80452978)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 肝幹・前駆細胞 / 細胞移植 / 再生医学 |
研究概要 |
我々は肝幹・前駆細胞であるThy1陽性オーバル細胞はRetrorsine/部分肝切除モデルに対する移植実験で移植細胞巣をほとんど形成せず,置換効率が悪いため,肝疾患治療への応用は難しいという実験結果を得ていたが,更なる解析の結果,Thy1陽性細胞を移植すると移植早期で肝体重量比が増大するという結果を得た。そこで,レシピエント由来の肝前駆細胞(SHPCs)の出現率を解析したところ,1 mm2当たりのSHPCs clusterの数は移植していないcontrol群で0.37±0.06 個に対し,Thy1陽性細胞移植群では1.1±0.1 個,またSHPCs cluster構成細胞数はcontrol群で69.5±28個,Thy1陽性細胞移植群で130.4±70 個で,Thy1陽性細胞移植群で有意にSHPCs cluster数及び構成細胞数が多く,Thy1陽性細胞移植はレシピエント由来SHPCsの増殖を促進する,という知見が得られた。この現象をin vitroで再現し,増殖機構を解析するため,小型肝細胞とThy1陽性細胞を共培養した。Thy1陽性細胞由来の液性因子と細胞間接着の影響を検討するため,Cell strainerを介した間接共培養と直接共培養の2通りで検討した。controlとして小型肝細胞単独のものを用いた。結果,小型肝細胞コロニーの細胞数はcontrolで83.6±55.1,間接共培養で132.0±65.8,直接共培養で122.4±67.1であった。BrdU染色による labeling Indexでは,controlで22.8±8.9 %、間接共培養で44.5±14.1%,直接共培養で47.2±25.7%であり,間接共培養において有意に増殖能が高まったことから,Thy1陽性細胞由来の液性因子が,内在性SHPCs増殖促進のKey factorになっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,肝幹・前駆細胞移植におけるレシピエント由来肝前駆細胞活性化のメカニズムを解析することで,肝疾患に対する肝再生誘導治療へ繋げることである。これまでの研究により,Keyとなる因子がThy1陽性細胞由来の液性因子であることがわかったので,今後はその候補因子を特定することが目標となる。研究計画の方向性がはっきりと定まったこと,及びその解析手法が確立してきたことから,本研究計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Thy1陽性細胞移植による肝再生促進機構が、Thy1陽性細胞由来液性因子がKeyとなるところまではわかったので,今後はその候補因子の抽出を目標とする。再生メカニズムの仮説として、液性因子がレシピエントの肝幹・前駆細胞に直接作用して増殖活性を促進する場合(直接的作用)と、液性因子が内在性のマクロファージや星細胞を活性化することで細胞増殖因子分泌を促進し、肝再生を促進する場合(間接的作用)の2つのメカニズムが考えられる。またThy1陽性細胞由来液性因子としては、細胞増殖因子とmicroRNAを含むexosomeが考えられる。その影響を解析するため,Thy1陽性細胞由来培養上清からexosomeとそれ以外の細胞増殖因子を抽出し,小型肝細胞に投与することで直接的な増殖効果を検討する。また,肝星細胞やKupffer細胞を単離し,これにThy1陽性細胞由来exosome若しくは細胞増殖因子を投与することで、種々の細胞増殖因子の分泌が促進されるか、検討する。 またcontrol群及びThy1陽性細胞を移植した肝臓からSHPCsをLaser Micro-disection (LMD)を用いて採取し,そこからRNAを抽出してreal-time PCR若しくはマイクロアレイにより,Thy1陽性細胞移植群で遺伝子発現が上がっている候補因子を特定し,in vitro実験とin vivo実験の相関性を検証する。候補因子を数種類特定出来たら,その候補因子の単独投与で肝再生が促進するか検討し,内科的肝再生誘導治療への可能性を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究には候補となる液性因子の網羅的解析を必要としており,その解析に必要なLMD新装置が本年3月に設置されたことと,解析を行う上での最適条件の検討等は現在進行中であるため,次年度使用額が生じている。以上の推進方策により,組織切片作製などの研究補助者に対する謝金として約50万円が必要である。また得られた成果は,国内外における学会報告及び学術雑誌へ論文投稿により外部へ発表していく。その他は実験動物や実験器具などの消耗品の購入に用いる。
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