研究課題/領域番号 |
24790390
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
冨川 直樹 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (80468587)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
本年度では、上皮分化のコーディネーターとして働くことが予想されるタイト結合膜貫通分子であるクローディン-6 (Cldn6)とsrc family kinaseに着目して研究を進めた。 Cldn6を過剰発現させたマウスF9幹細胞株(F9:Cldn6)では、他のタイト結合分子や微絨毛形成分子の発現と上皮様細胞への分化が誘導されるが、Cldn6の発現をsiRNAによりノックダウンすると、これらの分子の発現誘導が抑制され、上皮分化が見られなくなった。また、食中毒菌Clostridium perfringens の腸毒素(CPE)のC末ペプチド(CCPE)は細胞傷害作用がなく、クローディン‐4とクローディン‐6に特異的に結合して、これらのクローディンの発現量を保ったまま細胞間接着部位から除外できる食中毒菌Clostridium perfringens の腸毒素(CPE)のC末ペプチド(C-CPE)を作製し、F9:Cldn6へ加えた結果、他のタイト結合分子や微絨毛形成分子の発現誘導と上皮分化が顕著に阻害されることが分かった。また、Tet-onシステムにより、doxycyclineの添加によってCldn6が発現するF9幹細胞株(F9:L32T2 Cldn6)を樹立した結果、Cldn6の発現に伴って、他のタイト結合分子や微絨毛形成分子の発現が誘導され、上皮分化が起こることが明らかとなった。更に、マウスES細胞においても、上皮分化誘導時にCldn6の発現が誘導されることや、ES細胞にCldn6を過剰発現させると顕著に上皮分化が誘導されることが分かった。 以上の結果から、幹細胞の上皮分化において、Cldn6は分化誘導を促すコーディネーターとして機能することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cldn6は幹細胞の上皮分化において重要な機能を示すことを、cell lineであるF9だけではなく、マウスES細胞においても同様の結果が得られたことは大きい。また、C-CPEの添加実験により、Cldn6の発現だけではなく、Cldn6がタイト結合領域に局在することが、Cldn6の上皮分化機能に重要であることを明らかにすることが出来た。 次に、Cldn6の機能ドメインを解析するために、Cldn6の細胞外ドメイン部位や細胞質内ドメインの欠損体、細胞質内ドメインに存在するチロシン残基のアラニン置換体のコンストラクトを作製し、各種変異体Cldn6を発現させたF9細胞株を樹立した。更には、SFK分子の一つであり、Cldn6のシグナル分子として機能することが示唆されているBlkについて、過剰発現細胞株(F9:Blk)やレンチウィルスを用いたshRNAベクターの導入によって、Blkを恒常的にノックダウンさせたF9:Cldn6細胞株(F9:Cldn6 shBlk)の樹立も終えている。 以上のことから、現在までに研究目的の過半数を達成することが出来ており、今後の解析に使用するツールの準備を終えていることから、本研究はおおむね順調に伸展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、作製したCldn6の細胞外ドメイン部位や細胞質内ドメインの欠損体、細胞質内ドメインに存在するチロシン残基のアラニン置換体を発現させたF9細胞株を用いて、次の解析を進める。1)これらのCldn6変異体発現F9細胞が上皮分化を起こすかどうかを解析し、上皮分化誘導に必要なドメインの同定を行う。2)これらのCldn6変異体と活性化SFKが相互作用するかを、免疫沈降法により解析を行い、SFKとの相互作用部位の同定を行う。3)チロシンリン酸化抗体を用いて免疫沈降を行い、上皮分化過程において、Cldn6がチロシンリン酸化されるかを明らかにする。更に、各種Cldn6変異体を用いて、上皮分化過程におけるチロシンリン酸化状態を検討し、どの部位のチロシン残基がチロシンリン酸化されるかを明確にする。以上の結果から、Cldn6の上皮分化誘導機能におけるCldn6の活性部位を同定し、その部位がSFKとの相互作用に重要であるかなど、上皮分化シグナルのメカニズムを明らかにする。 次に、Cldn6のシグナル分子として機能することが示唆されているBlkについて、過剰発現細胞株(F9:Blk)を用いて、Cldn6とBlkの相互作用を検討する。また、F9:Cldn6 shBlkの形態変化を観察し、Cldn6の上皮分化誘導シグナル分子としてBlkが関与しているかを明らかにする。更には、マウスES細胞において、上皮分化過程におけるBlk発現の有無や、Cldn6との相互作用の有無を明らかにする。以上の結果から、Cldn6の上皮分化誘導シグナル分子として、SFKの中でも特にBlkが機能していることを明確にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用について、次の様に計画している。1)Cldn6変異体発現細胞の解析、SFKとの相互作用を検討するための抗体、ウェスタンブロット解析試薬、免疫染色試薬に使用する。2)F9細胞やマウスES培養のための培地、血清など培養用試薬に使用する。3)マウス発生初期胚におけるCldn6やBlk発現の解析を行うため、マウスなどの実験動物の購入及び解析試薬に使用する。4)各種実験を遂行するために必須なプラスチック 製品などの試薬に使用する。5)細胞への各種遺伝子導入の試薬として発現ベクター、大腸菌、プラスミド精製キット、遺伝子導入試薬が必要であり、その購入に使用する。6)本研究の成果発表のための学会旅費(日本病理学会と細胞生物学会を予定)と論文投稿時における投稿費に使用する。
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