研究課題/領域番号 |
24790392
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
福田 敏史 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (50372313)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | CAMDI / DISC1 / 統合失調症 / 大脳 / 精神疾患 |
研究概要 |
統合失調症は人口の約1%で発症すると言われており、躁(そう)や鬱(うつ)の症状を呈す。その多くは思春期以降に発症し慢性、進行性の症状を示す。しかしその根本的な発症要因は未だ解明されておらず、遺伝的、環境的な要因が存在するといった漠然とした考察があるのみである。 これまでに統合失調症関連蛋白質DISC1と結合する新規の蛋白質CAMDIを発見した。CAMDIは胎児発生中の大脳皮質中間帯に発現が認められた。秩序だった神経細胞の移動は将来の大脳皮質6層構造の形成に重要な役割があることも知られている。これらのことから、子宮内遺伝子導入法を用いてマウス胎児においてCAMDI遺伝子の発現を抑制したところ、有意に神経細胞の移動が阻害されることを申請者は明らかにしてきた。 この結果を受けて本年度は、CAMDI遺伝子のノックアウトマウスを作製した。CAMDI遺伝子ノックアウトマウスは外見的には正常に生育し、生殖も可能であった。大脳皮質層構造のマーカー蛋白質(II/III 層:Cux1, V層:Ctip2)に対する抗体を用いて大脳皮質の染色を行った。その結果、II/III 層の神経細胞を標識するCux1抗体で染色される細胞が、V, VI層にも存在することが明らかとなった。このことは、II/III 層の神経細胞の移動が異常であることを示す。更に、子宮内遺伝子導入法を用いることでノックアウトマウスにEGFP遺伝子を発現させ、個体内における個々の神経細胞の移動や突起伸長、スパインを可視化させて詳細な観察を行った。その結果、神経細胞の移動異常、樹状突起の短縮、スパイン密度の増加が認められた。これらの所見は、精神疾患患者の剖検脳でも確認されていることから、CAMDIの異常が精神疾患の発症に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ノックアウトマウスの作成において、動物舎の改築があり多少の時間的ロスが発生したものの、概ね順調に作成することが出来ている。子宮内遺伝子導入法を用いた発現阻害実験での神経細胞移動の異常という結果をノックアウトマウスにおいても再現出来ている。実際のヒト精神疾患患者の剖検脳における所見と似た表現型が認められたことから、今後は更なる研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
組織学的な解析として、ヒト精神疾患患者の剖検脳において異常所見があると報告されている前頭前野内側部や海馬歯状回、CA1領域などを中心に解析を行う。様々な精神疾患において、興奮性入力と抑制性入力のバランスの異常が原因ではないかという仮説が近年疑われている。そこで、抑制性神経のマーカーである、GABAやPVを発現する神経細胞について解析を進める。 子宮内遺伝子導入法による解析から、CAMDI遺伝子の発現を抑制すると脳の高次機能に直接的な影響を与えていると考えられる。そこで行動学的な解析として、CAMDI遺伝子のノックアウトマウスを用いて記憶形成や行動学的な解析を行い、精神疾患様の表現型の有無を調べる。現在、C57BL/6マウス系統へのバッククロスを終了した。妊娠時に手術を行うと子育てをする確率がかなり減少する傾向が認められている。鬱(うつ)の指標となる試験や、新規環境(ストレス)への適応、社会的相互作用などを中心に解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
いずれの研究も進行状況を踏まえながら行うが、前年度に引き続きノックアウトマウスの解析を行うため、マウスの飼料や繁殖に必要な消耗品を購入する。また、組織学的解析を主に行なうことから、抗体や組織染色のための消耗品を購入する。また、初代細胞やスライス培養を用いた培養系における研究を行うため、プラスティックディシュなどを必要とする。平成25年度はノックアウトマウスの行動解析に加え、酵母を用いた新規結合蛋白質のスクリーニングを行う。プラスミドの精製やライブラリーの作製、購入を必要とする。また、成果発表、研究成果投稿料が必要であると考えられる。
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