研究課題/領域番号 |
24790393
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
釘田 雅則 藤田保健衛生大学, 疾患モデル教育研究センター, 助教 (50440681)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 多発性嚢胞腎症 / RXR |
研究概要 |
申請者らは、多発性嚢胞腎症 (PKD) モデル動物Cyラットの初期嚢胞腎を用いて遺伝子発現の網羅的解析を行ない、リガンド依存的核内受容体であるretinoid X receptor (RXR) を介した情報伝達経路が嚢胞形成に関与していることを示唆した。また、+/+ラットの腎臓では45kDa RXRが蓄積しているのに対して、Cy/+ラットの嚢胞腎では45kDa RXRだけでなく53kDa RXRも蓄積しているという知見を得ている。これはCy/+ラットにおいて53kDa RXRの分解が正常に行われていないことを示唆している。さらに、この特徴はCyラットだけではなく他のPKDモデル動物PCKラット、jckマウスにおいても見られる。以上のことより、RXRの代謝異常と嚢胞形成との関連性を検証することとした。 平成24年度は、RXRの異常修飾の解析を行ない、 (1) +/+ラットの腎臓では核分画と細胞質分画の両方に45kDa RXRが存在するが、Cy/+ラットの腎臓では、細胞質分画に45kDa RXRが存在し、核分画に53kDa RXRが存在する、 (2) 53kDa RXRのみリン酸化されている、 (3) 53kDa RXRはセリン、スレニオンがリン酸化されており、その内少なくとも260番目のセリン、82番目のスレオニンがリン酸化されている、 (4) RXRの分解にはシステインプロテアーゼが関与しているという新知見を得た。 これらの特徴は、肝癌にて報告されているRXRの異常修飾と類似している。肝癌では異常修飾によりリン酸化RXRが蓄積することにより細胞増殖の異常亢進が起きている。それゆえ、嚢胞腎においても肝癌同様RXRの異常修飾により細胞増殖の異常亢進が起きていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における目的は、 (1) 嚢胞腎におけるRXRの異常修飾の解明、 (2) RXRの異常修飾機序の解明、 (3) RXRの異常修飾と嚢胞形成との関連性の実証およびその改善の3つからなる。平成24年度の研究により、嚢胞腎におけるRXRの異常修飾(53kDa RXRのリン酸化および核への局在、システインプロテアーゼによるRXRの分解)が解明され、 (1) 嚢胞腎におけるRXRの異常修飾の解明という目的はほぼ達成されたと考えられる。 また、平成25年度の研究目的である(2) RXRの異常修飾機序の解明に向けて、ヒトの嚢胞腎の不死化細胞、RXRの260番目のセリン、82番目のスレオニンをそれぞれ、もしくは両方をアラニン(非リン酸化を誘導)に置換したコンストラクト、同様にアスパラギン酸(恒常的なリン酸化を誘導)に置換したコンストラクトを用意しており、平成25年度も速やかに研究が行えると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
肝癌では、 (1) RXRの260番目のセリンはRas/MAPK経路によってリン酸化されていること、 (2) RXRの分解にはシステインプロテアーゼであるカルパイン、もしくはカテプシンが関与していること、 (3) リン酸化RXRの蓄積は細胞増殖の異常亢進を起こすこと、 (4) これを改善するにはRXRのリン酸化を抑制することが重要であること、RXRのリガンドを併用すると改善効率があがることが報告されている。 平成25年度は、ヒトの嚢胞腎の不死化細胞、RXRの260番目のセリンと82番目のスレオニンをアラニン(非リン酸化を誘導)もしくはアスパラギン酸(恒常的なリン酸化を誘導)に置換した各種コンストラクト、Ras/MAPK経路のリン酸化阻害剤、カルパインおよびカテプシン阻害剤、RXRのリガンドを使用して、上記の (1) ~ (4) が嚢胞腎にも当てはまるかを検証する。 嚢胞腎におけるRXRの異常修飾機序が肝癌の機序と異なる場合は、Ras/MAPK経路以外のリン酸化経路、カルパイン、カテプシン以外のシステインプロテアーゼについて検討を行う。 (4) の検証により、嚢胞腎においてもRXRのリン酸化抑制が病態改善につながり、その改善効果はRXRのリガンドを併用することにより高くなることが期待される。平成25年度の後半にはPKDモデル動物に薬剤(リン酸化阻害剤)とRXRのリガンドを併用して投与を行ない、病態抑制効果を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では、多発性嚢胞腎症のモデル動物であるCyラットの嚢胞腎におけるRXRの異常修飾を解明した後、細胞を用いる研究に移行していく予定であった。しかしながら、Cyラットの繁殖効率が悪く、当初予定していたようにCyラットを研究に使用できなかった。また、RXRの異常修飾を解析するためにCyラットが16週齢以上になる必要があった。そのため、平成24年度は嚢胞腎におけるRXRの異常修飾の解明までとなり、細胞を用いる研究(リン酸化RXRがプロテアーゼ耐性を獲得するのか、また細胞増殖を亢進させるのかの検証)に移行できなかった。ただし、ヒトの嚢胞腎の不死化細胞およびRXRの各種変異コンストラクトは既に用意しており、平成25年度は速やかに細胞を用いた研究が行える状況にある。 平成25年度は、当初の計画通り細胞を用いてRXRのリン酸化酵素の同定などを行うとともに、平成24年度に行えなかったリン酸化RXRがプロテアーゼ耐性を獲得するのか、また細胞増殖を亢進させるのかの検証も合わせて行う。 Cyラットの繁殖効率が悪いことから、繁殖規模を大きくし、将来の投与実験用の動物を確保する。 次年度に得られる成果も学会等で発表を行ない、その成果を社会・国民に随時発信する。
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