研究課題/領域番号 |
24790395
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
瀬戸 絵理 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40431382)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ウイルス感染 / P-body / Stress granule / 翻訳制御 |
研究概要 |
本研究はmRNAの翻訳抑制あるいは分解の場として知られているStress granule(SG)やProcessing body(P-body, PB)といった細胞質内RNA顆粒が、感染応答における翻訳制御に重要な役割を果たすのではないかという着想のもとに行っている。これまでにLPSやpolyI:CなどのTLRリガンドによるヒトマクロファージ細胞株への刺激でSGが形成されない一方、PBの形成がサイトカイン産生に伴って著名に誘導されることを見いだした。さらにPBの形成に必須な構成タンパクをsiRNAによりノックダウンしてPBの形成を阻害した細胞では、IL-6やTNF-αなどのサイトカイン産生量の低下が認められたが各々のmRNAの発現量に変化は認められなかった。この結果はPBが感染応答の際にすみやかに誘導されるサイトカイン遺伝子の効率的な翻訳のためにmRNAを一時的に貯蔵しておく場として機能している可能性を示唆するものであった。これまでPBは主に翻訳が不活化されたmRNAを分解する場として機能すると考えられてきたが、本研究の結果から感染応答に必要なmRNAの翻訳の維持というPBの新しい役割が示唆された。そこで現在は、増殖が遅いために感染後も翻訳停止がおこらず宿主タンパクの合成が維持されるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)を用いて、感染細胞におけるウイルスおよび宿主のmRNA翻訳制御におけるPBの役割を調べているところである。 近年PBのウイルス感染における役割については、HIVや肝炎ウイルスで報告されつつあるものの明確でない。実際のウイルス感染におけるPBの役割を明らかにすることで、ウイルス感染制御の基盤技術の開発に有用な知見を提供できると確信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画に基づき、PBの形成抑制が自然免疫応答に及ぼす影響についてまず検討を行った。PBの形成に必須なEDC4タンパクをsiRNAによりノックダウンしてPBの形成を阻害したヒトマクロファージ細胞株をTLRリガンドで刺激したときのサイトカイン産生をELISA法により調べたところ、IL-6やTNF-αなどの産生量の低下を認めた。一方で各サイトカインのmRNAの発現量に変化が認められなかったことから、PBはmRNAの分解というよりはむしろ保持に機能するのではないかと考えた。 研究計画では、PBが主にmRNAの分解に機能するという知見から、自然免疫応答の際にPBに濃縮されてくるmRNAを、PB構成因子のひとつでmicroRNAを介したmRNA分解に機能するAgo2タンパクに対する抗体で沈降し、PBでの分解を受けるmRNAを同定する予定であった。しかしこれまでの結果からAgo2免疫沈降は感染応答において翻訳の維持のためにPBにリクルートされるmRNAの同定には適さないことから、HCMV感染で顕著に形成が誘導されてくるPBの役割を調べることにした。HCMV感染では宿主の翻訳が停止しないことから、感染応答に伴う宿主mRNAの翻訳制御におけるPBの役割を解析できるからである。これまでにsiRNAによりPBの形成を阻害した細胞にHCMVを感染すると、ウイルスタンパクや感染により発現が上昇することが知られている宿主蛋白の発現量が顕著に減少する一方で、各々のmRNAの発現量には変化がみられないことを明らかにした。 以上の結果から、感染応答の際のPB形成の意義という本研究の設問に対して翻訳の維持というひとつの回答を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果から、感染応答の際のPBの形成はウイルスや宿主遺伝子の翻訳の維持に機能していると考えられる。さらにHCMV感染によりPBの形成が促進される一方で、SGの形成は全く起こらないこと、また亜ヒ酸処理などのストレス刺激によって形成されるPBにはAgo2がリクルートされてくることが知られているが、HCMV感染によって形成されるPBにはAgo2が全くリクルートされてこないことから、HCMV感染によって形成されるPBはnon-canonicalなPBであると考えている。ウイルス及び宿主mRNAとRNA結合タンパクの複合体は、翻訳が活性化しているポリゾームと翻訳が停止しているPBへのみ移動し、SGへの移動は阻害されているとも考えられる。またあるストレス刺激では、その刺激によって形成されるPBとSGを厳密に区別して同定することが困難であることを考え合わせると、HCMV感染後に形成されるPBはSGの役割も併せ持っているのではないかと推察される。 そこで、スクロース密度勾配遠心によってポリゾーム画分と、リボゾームが遊離していて翻訳が不活化しているPB画分の分画を試みる。そして各フラクションからタンパクを抽出してウェスタンブロット法によりPB構成蛋白を検出することで分画の効率を評価する。PBの分画に含まれる蛋白をTOF/Mass解析により網羅的に同定することでHCMV感染により形成されるnon-canonicalなPBの構成因子を明らかにしていきたい。 以上の方法により、PBによる感染応答の制御機構を解明できると考えている。PBの形成がウイルスと宿主細胞の遺伝子の翻訳を効率的に進める上で必要であるという結果は全く新しく、その形成の意義を明らかにすることはウイルスのみならず感染症研究全般に大きなインパクトを与えることができると確信している。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の遂行に必要な設備や備品等は、実施場所に概ね備わっている。よって平成25年度の経費の主な用途は消耗品である。その内訳は細胞培養に必要な培地、血清、デイッシュなどのプラスチック製品、ガラス器具、抗体、オリゴ作製費、試薬類である。また国内および国際学会で研究成果を発表するために必要な旅費も使用予定である。
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