研究課題/領域番号 |
24790395
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
瀬戸 絵理 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40431382)
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キーワード | ウイルス感染 / P-body / Stress granule / 翻訳制御 |
研究概要 |
本研究はmRNAの翻訳抑制あるいは分解の場として知られているStress granule(SG)やProcessing body(P-body, PB)といった細胞質内RNA顆粒(mRNP)が、感染応答における翻訳制御に重要な役割を果たすのではないかという着想のもとに行っている。これまでにヒトマクロファージ細胞株へのTLRリガンド刺激で、サイトカイン産生に伴ってPBの形成が著名に誘導されることを見いだした。またPBの形成を阻害した細胞では、IL-6やTNF-αなどのサイトカイン産生量の低下が認められたが各々のmRNAの発現量に変化は認められなかった。これらの結果はPBが感染応答時にmRNAを一時的に貯蔵する場として機能している可能性を示唆した。そこで次に、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)を用いたウイルス感染モデルにおけるmRNPの動態解析を行った。HCMVは他のウイルスに比べて増殖が遅いために、感染後の宿主翻訳停止をおこさずにウイルスタンパク合成を行って増殖することが知られている。このことから、HCMV感染でのmRNP動態を調べることで、ウイルス側と宿主側の両方の翻訳制御におけるmRNP の役割を明らかにできると考えたためである。HCMV感染ではSGの形成が全く誘導されない一方で、PBの形成が感染初期に著名に増加した。またPB形成をノックダウンすると、ウイルスの前初期タンパクだけでなく、感染後に発現が上昇することが知られている宿主タンパクの発現量も顕著に減少したが、各々のmRNAの発現量には変化がなかった。さらに、感染で誘導されるPBには一部の宿主翻訳開始因子がリクルートされてくることを見いだした。以上の結果から、ウイルスおよび宿主遺伝子の効率的な翻訳維持という感染応答時のPB形成の新しい役割を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PBは主にdecappingやdeadenylationに関わるタンパクを構成因子として持つ事から、mRNA分解の場として機能していると考えられてきた。しかし本研究の結果から、自然免疫刺激で形成が誘導されるPBがmRNA分解というよりはむしろ翻訳の維持に貢献している可能性が示された。当初の研究計画ではPB構成因子のひとつでmicroRNAを介したmRNA分解を行うAgo2タンパクに対する抗体で自然免疫応答の際に形成されるPBを沈降し、そこに含まれるmRNAを同定していく予定であったが、この方法は免疫応答時の翻訳維持のためにPBにリクルートされてくるmRNAの同定には適さないことがわかった。そこで、感染応答で形成が誘導されるPBの性状についてより詳細に解析するため、培養細胞への感染でPB形成が顕著に誘導されるHCMVを用いた検討を行った。HCMV感染では宿主の翻訳が停止しないことから、感染応答に伴う宿主mRNAの翻訳制御におけるPBの役割を解析できることが期待されるためである。PBの形成をsiRNAで抑制した細胞にHCMVを感染させると、ウイルスタンパクや感染により発現が上昇する宿主蛋白の発現量が減少する一方で、各々のmRNAの発現量には変化がみられなかった。また感染で誘導されるPBにはAgo2タンパクがリクルートされてこない一方で、一部の翻訳開始複合体構成因子が共局在してくることが明らかとなった。 これらの結果からHCMV感染でこれまでの定義とは異なるnon-canonical PBの形成が誘導され、そのPBがmRNAを翻訳サイクルへの移行に備えて一時的に蓄える場として機能することが示唆された。今後はこのnon-canonical PBを構成するmRNAやタンパクを同定していくことで、感染応答時のPBによるmRNA代謝制御機構を解明することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの本研究の結果から、ウイルス感染によって形成されるPBに宿主の翻訳開始因子とウイルス及び宿主のmRNAが貯蔵され、そのmRNAをいつでも迅速に翻訳活性化できるようになっているのではないかと予測している。現在、感染で形成されるnon-canonical PBにリクルートされてくるタンパクの同定を試みるべく、スクロース密度勾配遠心によってポリゾーム画分とリボゾームが遊離していて翻訳が不活化しているPB画分を分画する方法の条件検討を行っている。各フラクションからタンパクを抽出してウェスタンブロット法によりPB構成蛋白を検出することでPB分画の効率を評価する。そしてPB画分に含まれる蛋白を質量分析法により網羅的に同定することで、HCMV感染により形成されるnon-canonicalなPBの構成因子を明らかにしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究のこれまでの結果から、感染応答の際に形成が誘導されるPBはウイルスや宿主遺伝子の翻訳の維持という役割を持つと考えられた。そこで平成25年度には、感染で形成が誘導されるnon-canonicalなPBをスクロース密度勾配遠心法で分画し、構成タンパクを質量分析により同定していく予定であったが、分画条件の検討に予定以上の期間を要し、サンプルを質量分析に供するまでには至らなかったため、未使用額が生じた。 引き続き分画条件の検討および質量分析を次年度に行うこととし、未使用額はその実験に必要な試薬類、デイッシュなどのプラスチック製品、抗体などの消耗品費に充てることとする。
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