研究課題/領域番号 |
24790398
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
兼子 佳子 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 運動器疾患研究部, 研究員 (60532976)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 骨芽細胞 / 骨細胞 / インテグリン / ノックアウトマウス / シグナル伝達 / 細胞骨格 / ずり応力 |
研究概要 |
本研究の目的は、細胞接着分子インテグリンalpha-vが骨細胞上でメカニカルストレス受容に関わるとの仮説を立て、個体レベルでメカニカルストレス受容の分子メカニズムを明らかにすることである。骨では、破骨細胞により古い骨が吸収され、骨芽細胞によって新しい骨が形成されることで骨量が維持される。破骨細胞と骨芽細胞の機能は、指令細胞である骨細胞によって制御されると考えられている。骨細胞はメカニカルストレスを受容すると考えられているが、骨細胞上に存在するメカノセンサーの実体や受容後に発動される細胞内シグナル伝達機構については不明な点が多い。近年、古典的Wnt シグナル伝達経路のアンタゴニストとして知られるSOSTの発現調節とメカニカルストレス受容機構が関連している可能性が示されているが、骨細胞がどのようにメカニカルストレスを受容し、どのようなシグナル伝達系を経由してSOSTの発現調節をしているかについては未だ十分に明らかではない。 接着分子インテグリンalpha-v beta-3は、骨細胞周囲にそのリガンドが豊富に有することから、メカニカルストレス受容センサーの一つと考えられる。骨代謝におけるインテグリンの役割は破骨細胞において盛んに研究されているが、骨芽細胞および骨細胞においては個体レベルでの解析が十分にされていない。その理由は、骨細胞が硬い骨基質に埋没した特殊な環境に存在することにより、これまでその解析が技術的に困難であったためである。昨今、確立された骨細胞特異的に遺伝子発現を調節する系を用いて、骨細胞特異的にインテグリンalpha-vを欠損させるマウスを作製し、個体レベルでメカニカルストレス受容の分子メカニズムを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨細胞上のインテグリンalpha-vがメカニカルストレス受容機構に含まれることを個体レベルで示すために、骨芽細胞系列特異的および骨細胞特異的インテグリンalpha-v欠損マウスを作製した。マイクロCTによって骨の三次元構造を解析すると、両コンディショナルノックアウトマウス(cKO)はコントロールマウスと比較して低骨量傾向であった。骨代謝については、骨形態計測と血清を用いた生化学解析を行い、両cKOにおいて骨代謝回転が低下していることが示された。骨代謝に関わる遺伝子群の発現解析も行ったところ、両cKOにおいて、骨細胞より分泌されるSOSTの発現が高いことが示された。 また細胞レベルの解析では、マウス頭蓋冠由来の骨芽細胞を用いてインテグリンalpha-vを介するシグナル解析を行った。骨細胞に加わるメカニカルストレスとしてずり応力が考えられるので、培養骨芽細胞にずり応力を加えた後にインテグリンalpha-vを経由して活性化するシグナル伝達系に関して検討した。その結果、インテグリンalpha-vを介してずり応力応答にかかわるSrc-p130Cas-JNK-YAP/TAZという新たなメカニカルストレス伝達系の存在を明らかにした。 今後は、メカニカルストレス受容機構を個体レベルで明らかにするために、実験モデルを用いた解析をする予定である。また、細胞レベルの解析で明らかにした、Src-p130Cas-JNK-YAP/TAZシグナル伝達系の存在を個体レベルで明らかにしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
骨芽細胞系列特異的および骨細胞特異的インテグリンalpha-v欠損マウスを用いて個体レベルでのメカニカルストレス受容機構の分子メカニズムについて解析する。 まず、メカニカル刺激を除いた場合、骨芽細胞または骨細胞におけるインテグリンalpha-vの存在の有無が骨代謝に影響を与える可能性について検討する。具体的には、マウスの尾部を持ち上げ(尾部懸垂モデル)、脛骨や大腿骨への荷重を取り除いた状態での骨解析を行う。この尾部懸垂モデルマウスの脛骨や大腿骨を、通常飼育下のマウスの骨をコントロールとして、メカニカル刺激除去時に見られる遺伝子発現変化を比較検討する。特に注目しているのが古典的Wnt シグナル伝達経路のアンタゴニストとして知られるSOSTの発現調節である。SOSTは、骨細胞特異的に発現し尾部懸垂によりその発現が上昇することが報告されている。骨芽細胞系列特異的インテグリンalpha-v欠損マウスおよび骨細胞特異的インテグリンalpha-v欠損マウスにおいてSOSTの発現が上昇していることから、骨細胞上のインテグリンalpha-vがSOSTの発現調節に関与しているのではないかと推測している。 次に、前肢尺骨に強制負荷を行い、インテグリンalpha-vが骨芽細胞および骨細胞においてメカニカルストレス受容機構に含まれる可能性について検討する。具体的には、マウスの右前肢に負荷を加え、対肢をコントロールとして、メカニカルストレス受容後に活性化されるシグナル伝達経路と発動される遺伝子発現を比較検討する。SOSTは、前肢強制負荷により発現が抑制されることが報告されているので、特に注目して発現比較解析を行う予定である。 また、これらの研究結果を国内外の学会で発表し、国内外の研究者と討論することにより、この研究を更に発展させる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
骨芽細胞系列特異的インテグリンalpha-v欠損マウスおよび骨細胞特異的インテグリンalpha-v欠損マウスの骨よりmRNAを抽出し、遺伝子解析をするために必要な試薬等を購入する。また、これまでに細胞レベルで明らかにしたインテグリンalpha-vを介してずり応力応答にかかわるSrc-p130Cas-JNK-YAP/TAZという新たなメカニカルストレス伝達系について、個体レベルで明らかにするために、骨よりタンパク質を抽出し、タンパク質の発現およびその活性化を検討するために必要な試薬等を購入する予定である。 また、研究成果を国内外の学術集会で発表するための旅費に使用する予定である。
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