研究課題
薬剤耐性熱帯熱マラリア原虫の出現は著明な地理的偏在を示す。本研究では、ゲノムに突然変異を蓄積しやすいミューテーター原虫がこの事象に関わるという仮説の検証を行うとともに、遺伝子導入により作製したミューテーター原虫の薬剤耐性試験への応用を目的とし、研究を行っている。1. ミューテーター形質を賦与する遺伝子変異の同定本テーマでは、世界中の熱帯熱マラリア原虫のDNA複製やDNA修復に関わる遺伝子について大規模シーケンシングを行い、その多型性を明らかにする。本年度はゲノム増幅した熱帯熱マラリア原虫フィールド検体に対して、DNA複製関連遺伝子やDNA修復関連遺伝子を標的としたプライマーを用いてPCRを行った。このPCR産物についてイルミナの次世代シーケンサーによる解析を行う予定であり、そのためのライブラリー調整方法について予備試験を行った。2. ミューテーターマラリア原虫を用いたマウス感染実験系による薬剤耐性原虫の創出本テーマでは、ネズミマラリア原虫P. berghei ANKAのDNA polymerase deltaの校正機能欠損により開発したミューテーター原虫について、マウス感染実験系により薬剤耐性獲得能を検証する。薬剤耐性株などの突然変異体を効率的に創出するためには、多くの変異体を含む原虫ライブラリーを作製することが有用である。これまでの解析から、ミューテーター原虫の継代を続けることで多くの変異がゲノムに蓄積するが、継代の際の集団サイズを小さくするとボトルネック効果により集団の多様性が失われることが明らかとなっている。そこで、100万個という多くの感染赤血球を用いたミューテーター原虫の継代を半年にわたり続けることで数多くの変異を内包すると考えられる原虫集団を構築した。
2: おおむね順調に進展している
ミューテーター原虫の作製とゲノムワイド解析についてまとめた論文がDNA Research誌に掲載された。この論文については上毛新聞(H26.3.27)と読売新聞(H26.3.27)にそれぞれ取り上げられるなど評価されている。
1. ミューテーター形質を賦与する遺伝子変異の同定世界中の各地域から得られている熱帯熱マラリア原虫のDNA検体をテンプレートとしたPCRを進めている。PCRはひとつの検体あたり複数の遺伝子領域に対して行っており、PCRが終了した後は検体ごとに産物をプールしてそれぞれ別のインデックスをつけ、マルチプレックスで次世代シーケンサー解析を行う。得られたリードデータはP. falciparum 3D7株のゲノム配列にマッピングすることで変異箇所の同定を行う。これにより、DNA複製関連遺伝子やDNA修復関連遺伝子の多型性を地域ごとに明らかにする。2. ミューテーターマラリア原虫を用いたマウス感染実験系による薬剤耐性原虫の創出ミューテーター原虫の感染赤血球100万個を用いた継代を行うことで作製した原虫集団について、次世代シーケンサー解析により集団の多様性を明らかにする。得られる変異データからミューテーター原虫において生じる突然変異の傾向も明らかにする。また、この原虫集団に対して薬剤の選択圧を加えることで、耐性原虫が効率的に創出されるか検討する。耐性原虫の創出に成功した場合には、次世代シーケンサーを用いてゲノムシーケンシングを行い、耐性賦与に関わる遺伝子変異を同定する。
概ね平成25年度に予定していた計画通りに研究は進められたが、前年度からの繰り入れがあったために平成26年度使用額が生じた。平成26年度における研究費の主な使途は遺伝子解析に必要な試薬などの消耗品、感染実験に使うマウス、そして次世代シーケンサー解析に要する費用である。得られた研究結果については学会等で発表を行う予定であり、旅費が必要になる。また、論文が掲載された場合には投稿費用に充てる。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
Parasitology International
巻: なし
doi: 10.1016/j.parint.2013.09.011
DNA Research
巻: なし ページ: 1-8
Mitochondrion
巻: 13 ページ: 630-6
doi: 10.1016/j.mito.2013.08.008