核ゲノムを複製するDNAポリメラーゼδの校正機能を欠損させることで高頻度に突然変異を生じるミューテーターネズミマラリア原虫(PbMut)について、1) 塩基置換スペクトルの解析、2) 塩基置換が生じやすいホットスポットモチーフの探索、3) 抗マラリア薬クロロキン(CQ)耐性原虫の創出試験、を行った。 1) 6種類存在する塩基置換パターンのうち、C:G>T:AとC:G>A:Tが全体の64.8%を占める一方、C:G>G:Cはほとんど生じないなど、PbMutで生じる塩基置換にはバイアスが存在した。この傾向はPbMutを用いて創出することが可能な突然変異体の多様さに影響を及ぼしていると考えられる。また、P. bergheiは極めてATリッチなゲノム塩基組成(CG%=23)をしているが、C/G>A/Tの塩基置換がA/T>C/Gよりも多いことからAT含量はさらに増加すると考えられた。観察された塩基置換パターンから平衡CG含量を推定したところ、20.1%であった。 2) TCT(AGA)という塩基配列の中央のC:Gでは、塩基置換率が全体の平均よりも5.8-9倍高かった。この影響により、PbMutではナンセンス変異がグルタミン酸コドン(GAAあるいはGAG)において生じやすい傾向にあることが示唆された。 3) 野生型P. bergheiでは、30 mg/LのCQを自由飲水(マウス1 kgあたり6.25 mg投与に相当)で与え続ける限り原虫の増殖が抑えられた。そこで、PbMut感染マウスに30 mg/L CQを与える条件で試験を開始し、原虫増殖が確認された場合には徐々に投与するCQ濃度を上げていった。その結果、マウス1kgあたり20 mgのCQ投与下でも増殖する原虫系列が2つ得られた。今後、これらの原虫で蓄積した変異を解析し、耐性の責任遺伝子変異を特定する予定である。
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