研究課題/領域番号 |
24790403
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
二見 恭子 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (30432983)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ネッタイシマカ / 亜種構成 / 行動変化 |
研究概要 |
ネッタイシマカの亜種構成と発生源の水質や周辺環境の関係を明らかにするために、西ケニアの都市部(キスム)、林縁(ウンゴイ、ファンガノ)、およびそれらの中間的な環境(ビタ)でシマカ幼虫を採集して羽化させた。2012年11-12月に行った調査では、プラスチック製、陶製の人工容器やタイヤ、樹洞、植物の葉柄からシマカ幼虫を採集した。全51個の発生源から得られた1543個体のシマカのうち、1348個体がネッタイシマカであった。このうち亜種が同定されたのは1300個体であり、21%が都市型(Aaa)、79%が森林型(Aaf)であった。タイヤ、タイヤ以外の人工容器、樹洞、岩穴のどこからもAafが多く発生し、今回調査した樹洞からはAafのみが得られた。葉柄からはネッタイシマカは得られなかった。都市部では他地域に比べAaaの割合が有意に高く、26%であった。家屋からの距離と亜種の発生割合には有意な関係が認められ、家から遠いほどAaaの割合が高くなった。タイヤでは、人工容器よりもAaaの割合が高かったが、これは先の研究と逆の結果であることから、容器そのものへの選好性は弱い可能性が考えられる。全体的に発生源の水量やサイズが大きいほど、Aaaの割合は低くなる傾向が認められた。亜種特異的な水質の傾向は認められなかったが、容器の種類による特異性は認められた。 グラビッドトラップによる採集は成功したが、十分な数は採集されなかった。しかし一部の個体については産卵させることができ、成虫を羽化させた。羽化した成虫を同定したところ、ほとんどがAafであり、ほぼ一腹の子の形態は揃っていた。しかし、第一背板の鱗片が1つ、2つついたAaaと同定される個体が時折認められたことから、形態での亜種の同定方法は、正確とは言えない可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究がやや遅れている理由として、雨期がやや早くピークを迎え、また雨量も少なかったため、予想よりも発生源が少なかったことが挙げられる。また、計画当初に森林地域として予定していたウンゴイの環境が変化し、これまでネッタイシマカが採集されていた発生源が破壊されていた。そのため、急遽新しい調査地域としてファンガノでの調査を行ったが、時間的に余裕が無く、十分な調査を行えなかったことも原因である。またこれらの森林地帯では、ネッタイシマカの発生源と予想される水域で、他種のシマカ属が優先種であったことから、十分な個体数を集めることができなかった。グラビッドトラップによる採集では、死亡個体や非吸血個体なども認められ、採集効率が低かったことも影響している。 今回は初めての調査であったため、手法を検討しながら行ったこと、同時に現地スタッフを教育しながら行っていたため、一カ所の採集に時間がかかったことなども挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、4月から6月の調査を予定している。初年度に不十分であった幼虫の発生源調査と一腹子の形質の調査、および産卵場所選択実験を行う。その後、得られた結果を環境要因とともに解析し、論文にまとめる。 まず海外調査では、特に森林地帯であるウンゴイ、ファンガノでの発生源調査と、一腹子の形質を明らかにするためのグラビッドトラップでのメス成虫採集を重点的に行う。調査手法は前年度の手法を踏襲するが、さらに新しく水質検査の種目を増やす予定である。またグラビッドトラップの数を増やすことで、より多くの成虫を採集することができると予想される。環境要因の解析には、全天写真から算出される被覆度、データバンクから抽出した周辺環境、水質、家屋密度、発生源の質などを含める。 産卵場所選択実験は、3つの異なる環境から採集されたネッタイシマカ集団に、産卵場所選好性の違いがあるかを実験的に明らかにすることを目的としている。ケージ内で疑似樹洞と人工容器としてプラスチックカップを準備し、メス成虫がどの水源を好むかを選好性の指標として測定する。そのための疑似樹洞として利用する木製容器はすでに現地で調達済みであり、実験が可能である。 初年度の調査における問題点の一つとして、グラビッドトラップでの採集数が非常に少なかったことが挙げられる。この理由に、採集時に死亡個体が多く認められたことがあるが、これは一つには乾燥のためと考えられる。次回の採集では、湿った脱脂綿をケージ内に確保するなどの乾燥対策を検討する。また、ウンゴイでの発生源の減少に伴うデータの不足を補うため、新しい森林環境としてファンガノでの調査を重点的に行う。既に現地スタッフは調査方法に習熟しており、より効率的な調査が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
グラビッドトラップおよび一部の飼育ケージを所属機関から借用できたこと、安価な木製容器を手に入れることができたこと、および所属機関からの科学研究費獲得者に対する助成により必要な試薬の多くを確保できたことから、初年度は物品費を節約することができた。そのため、人件費は超過したが、最終的に初年度には余剰分が生じた。この余剰分は次年度助成金と合わせて調査費用に当てることで、長期の滞在および現地スタッフの長期雇用が可能となる。また、物品については予定通り、新たに成虫飼育用ケージ及び水質検査キットを購入する。その他の経費として、論文投稿費および学会への参加費を見込んでいる。
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