研究課題
本研究の目的は、ワクチン抗原の高分子量化と反復整列化によって、抗原の免疫原性を向上させる技術基盤を確立することである。これは組換えタンパク質抗原を化学的に自己会合させた高分子量可溶性凝集体が抗原単独の場合と比較して、有意に高い免疫原性を有することから、この免疫賦活機能をより高度に汎用性の高いシステムとすることが最大の意義である。具体的には、DNA分子の副溝(minor groove)に配列非特異的に結合するSso7d(DNA結合タンパク質)活用し、DNA分子をワクチン抗原を反復整列化させるための物理的な足場として利用する。このSso7dとワクチン抗原の融合タンパク質をDNA分子と結合させることで、ワクチン抗原がDNA分子の副溝に沿った形状で反復整列化され、高分子量複合体が形成されることとなる。今年度は「Sso7d-病原体由来抗原タンパク質(Sso7d-Ag)の大量発現系の確立」と「核酸・タンパク質複合体(DNA/Sso7d-Ag)の生化学的および化学量論的解析」の2項目について研究を推進した。まず三日熱マラリア原虫由来の伝搬阻止ワクチン抗原であるPvs25を最初のモデル抗原とした。その結果、酵母Pichia pastorisにおいてSso7d-Pvs25融合タンパク質が分泌発現され、Pvs25の生化学的および抗原的性質を有した状態で精製することができた。続いてモデルDNAとして用いたpCMV-betaプラスミドDNAとの複合体形成においては、質量比でDNA:Sso7d-Ag=1:1において飽和することが化学量論的解析によってわかり、安定的に複合体を形成していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ワクチン抗原の高分子量化と反復整列化によって、抗原の免疫原性を向上させる技術基盤を確立することであり、将来のマラリアワクチン開発および他の感染症に対するワクチン開発に寄与できる意義がある。その為には簡便で効率のよい免疫賦活増強システムを構築することが重要であり、本研究の最終到達目標でもある。今年度に推進した抗原融合タンパク質の発現・精製系の確立およびそれを用いた核酸・タンパク質複合体の形成とその解析の結果から、これまでの抗原発現・精製レベルと同等であり、さらに複合体形成ではより簡便な手法で構築ができている。以上のことから、本研究期間の初年度に今後検討すべき課題の基礎的な部分を固めることができたという理由から、総合的な自己評価として、「おおむね順調に進展している」とした。
今後、このSso7dプラットフォームの免疫賦活機能、感染防御機能について検討する必要がある。特に、三日熱マラリア原虫伝搬阻止機能解析(国内よび海外共同研究者の協力)やネズミマラリア感染防御機能解析、ならびに免疫学的解析を中心に進める。
研究費の主な使途はこれまでと同様に遺伝子工学、タンパク質工学的手法に必要な消耗品および生化学解析および動物実験解析に必要な消耗品類の購入である。また日本寄生虫学会、日本ワクチン学会等での研究成果発表のための旅費として研究費の計画を立てている。
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Urban Pest Management
巻: 2 ページ: 7-13
Vaccine
巻: 30 ページ: 4225-32
10.1016/j.vaccine.2012.04.047.