本研究は、ピロリ菌東アジア株について、次世代シークエンサーを用いて高精度・高速に完全長のゲノム配列を解読する手法を確立し、ゲノム比較解析を行うことでピロリ菌の東アジア人への適応進化・病原性進化について解析を行うことを目指すものである。全ゲノム情報を用いた比較解析を行うことにより、これまでの高々数個の遺伝子の塩基配列に基づいた解析と比べて、新規に獲得した遺伝子の検出や、より精密な系統解析、逆位等の大規模なゲノム再編の検出など、より精密な解析ができることが期待された。 本年度は、昨年度確立したゲノム解読手法を利用し、実際に患者から単離したピロリ菌株30株について、ゲノム解読を行った。すべての株について、追加のPCR解析無し、もしくは多くとも数カ所のPCR解析によって、予想通り一本のスキャホールドを得ることができた。 得られた30株のゲノムについてゲノム比較解析を行った。遺伝子レパートリーを比較したところ、oipA遺伝子の重複、モリブデン代謝遺伝子の欠失など、我々が先の論文で示した東アジア株の特徴をすべての株が持っていた。また、ゲノム上の逆位についても解析した結果、東アジア株内の逆位は先の解析で既知の5カ所と、新規に見つかった1カ所のあわせて6カ所の逆位の組み合わせで説明がつくことがわかり、その頻度は両端の逆向きの繰り返し配列の長さにより異なることが示唆された。 本研究の結果、ピロリ菌の大規模ゲノム解析の手法が確立でき、そのゲノム比較解析から、東アジア株の特徴とされていたデータを支持する結果が得られた。
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