研究概要 |
TSY216株の全ゲノム解読の結果、3つの環状レプリコン(3.05 Mb, 1.05 Mb、0.90 Mb)を保有することが明らかとなった。GC含量は第1、第2染色体が47%程度で他のコレラ菌O1のゲノムと特に相違はなかったが、第3レプリコンのGC含量は37%と低かった。TSY216株とハイチの流行株2010EL-1786との比較ゲノムの結果、第1染色体のSXT領域に違いが認められ、薬剤耐性パタンに相違があることが示唆されたが、その他の大部分の領域は一致し、TSY216株も、ハイチ流行株と同様、第7次世界流行株であることが示唆された。一方で、第3レプリコンは第1、第2染色体と相同な部分はなく、最近獲得されたレプリコンであることが示唆された。このレプリコンの大部分のORFsは機能未知であり、由来がわからないゲノム配列であった。また、tRNAは66個確認され、20種類のアミノ酸に対応していた。また、グローバルな転写抑制因子であるヒストン様タンパク質H-NSはVibrio属菌種のものと高い相同性が認められた。 第3レプリコン上に染色体・プラスミドの分配に関与するparA/B 遺伝子が認められた。TSY216株を30日間、毎日継代培養し、第3レプリコンの消失を調べたが、全てのクローンで保持されていた。増殖曲線も第3レプリコンの有無で違いが認められないことから、安定に保持されていた。しかし、42℃のストレス条件下で30日間継代培養することで、一部のクローンから第3のレプリコンの消失を確認した。この第3のレプリコンの保有の有無で、表現型の変化について解析を進めた。一定の条件下ではコレラ毒素産生量の差異は認められなかった。 この様な大規模遺伝子セットの獲得により、第7次世界流行型のコレラ菌のゲノムも劇的に変化を遂げ、抗原型や病原性を変えた新型コレラ菌を生み出すリスクがあると考えられた。
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